車の中の淫事-2
「ごめん。じゃあ……帰ってもいいかな」
まだ会ってから一時間も経っていない。
ファミレスで適当に食事を済ませて、三十分ほど車の中でくだらないおしゃべりをしていただけだ。
それでも美山は、嫌な顔ひとつせずにくるりと車をUターンさせてくれた。
「いいよ。そのかわり、今度いつでもいいから僕の店にその子連れてきて」
「ユウを? 美山くんの店の服なんか似合わないと思うけど」
「いやあ、背が180もあって細いんだったら何だって着こなせると思うよ。ほら、金持ちの息子なんでしょ? 良い客になりそうだもん」
「……わたしのまわりで変に商売っ気出さないでよ。そういえば、坂崎さんもあんたの店の常連なったらしいじゃない。もうそういうのホント、勘弁して」
たった一度だけ、桃子が別の男と食事をしていた店で美山とはちあわせしたことがある。
シティホテルの最上階にあるレストラン。
仕事先の人間と一緒だったという美山は、悪びれもせず桃子と相手の男に挨拶し、ほんの十分ほど談笑する間に男と名刺交換してしまった。
その後、美山の方から積極的に連絡を入れて店に誘い、何をどうやったのか見事に常連客にしてしまったらしい。
別に誰が美山の店の商品を売りつけられようが知ったことではないが、自分のいない場所で男同士が桃子の話をネタにしているかと思うとちょっと心穏やかではいられない。
「ああ、坂崎さんね! 超いい人だよ、金払いもいいし紳士的だし、見た目も素敵なオジサマって感じで。桃子ちゃんから聞いてる変態親父のイメージとどうにも結び付かないんだけど」
「あの人、裏表すごいからね。最初のとき、ヤッてる最中に本気で死んじゃうと思ったもん」
「うーん、信じられないなあ。僕よりちょうど20歳上だったと思うんだけど、まず坂崎さんにそこまで性欲があるとは思えないな」
「それもう完全に騙されてるから。疑うんなら一回ヤッてもらえば? 美山くんってバイなんでしょ?」
美山は最初からバイセクシャルであることを隠さなかった。
基本的には女性を相手にするが、相手によっては男性でもいいらしい。
桃子は自分が股の緩い類であることを自覚はしているが、さすがに同性と寝たいと思ったことは無いのでうまく理解ができない。
「げー、僕はもうちょっと若い子のほうが好みだからさあ」
どっちかっていうとユウくんのほうを紹介してほしいよ。
そう言って美山はまた笑った。
坂崎というのは、桃子が出会い系で知り合った最初の男だ。
美山の言うようにパッと見た雰囲気は上品で落ち着いた紳士のような風貌で、そこそこ大きな企業を経営しているのに偉そうなところがなくて好感が持てる。
普段は桃子の言動をたしなめたり「もっと将来のことを考えなさい」などと分別くさいことを言う癖に、性的には驚くほど貪欲で桃子を痛めつけるように抱く。
坂崎とのプレイを終えた後は、たいてい腰が立たなくなっている。
それでも誘われるたび会いに行ってしまうのは、気を失うほどの快感が忘れられないからかもしれない。