ふたりの出会い-4
「あはは、そうだったっけ? 全然覚えてないなあ……なんとなく風邪ひいてたのもあって体調悪かったような気もするけど」
「よく言うよ、ほんとあの日は散々だったんだから!」
初対面の日の話をすると、ユウはいつもきょとんとした顔をする。
まだ2カ月しか経ってないというのに、あの夜のことはユウの脳内から綺麗に削除されてしまったらしい。
まったく、腹が立つ。
あの後ユウが落ち着くまでカフェで長時間付き合い、結局こらえきれなくなって盛大に床の上に吐いたのを店員さんに平謝りし、極寒の中を連れ歩くこともできず仕方なく入ったホテルで童貞までもらってやったのはいったい誰だと思っているのか。
ベッドの上での行為もそれは酷いものだった。
キスをさせてみれば歯はガチガチ当ててくるし、力まかせに触ろうとするからちっとも気持ちよくなくて痛いし。
結局は桃子の方が上になってリードして、どうにか無事に繋がり合えた。
一度覚えたら今度は猿のように夢中になってしまい、桃子が泣き出すまで体を離してくれなくなった。
減点に次ぐ減点。
もう2度と会うものかと思っていた……のに。
不思議なもので、桃子以外の女性を知らない男なのだと思うと妙な情が湧いた。
わからないことをわからないという素直さも好感が持てる。
年上なのに、自分の手で育てていくような感覚が面白い。
たまたまアパートが近所だったこともあって、あれからお互いの部屋を行き来するようになり、週のうち2日か3日は一緒に眠るようになった。
今夜は桃子の部屋。
狭いシングルベッドに潜り込んで男と裸で抱き合っていると、たいていのことは許せるような気持ちになる。
それでもわざと怒ったような表情を崩さずにいると、ユウが不安そうにしがみついてきた。
細身とはいえ身長180センチの体にのしかかられると、桃子の華奢な腰骨は悲鳴をあげる。
「ちょっと、重いよ! 苦しい」
「ごめん……覚えてないけど、でもすごく緊張してたと思う。だってほら、そもそも他人と会話するのが何年ぶりかっていうレベルだったし」
「もう知ってるから。ユウが筋金入りの引きこもり青年で、キスのひとつも上手にできない純情童貞クンだったっていうのは」
「うわ、なんだよ。そんな言い方ないだろう」
「だって本当のことじゃない。どこに入れたらいいのかワカンナイーって泣きそうになってたくせに」
「……でも、いまは違うよ。桃子が教えてくれたから」