スー-4
一年ほど経つと胸や尻が膨らみ始めたスーだが、心配していたような崩れは起きなかった、正に蕾がほころび花弁が開いて行くように少しづつ大人に近づいて行く・・・多くのファンがその瞬間を共有し、スーの成長を見守った。
撮影に慣れてぎこちなさが取れて行ってもスーの魅力は失われなかった、天真爛漫な笑顔と憂いを帯びた表情の落差はますます大きくなり、ファンの心を鷲づかみにしたのだ。
が、さすがに三年、二十冊近い写真集が出て新鮮味が薄れてくると、スーを見守り続けた心優しく熱心なファンも「次」を探し始める。
老舗の少女ヌード雑誌が出版自粛に追い込まれた事件もあって出版社も二の足を踏むようになると少女ヌード人気そのものも下火となり、酒井は後ろ髪を引かれながらもビジネスと割り切ってスーとの契約を打ち切った。
そして更に四年が過ぎた。
酒井はまだ南アジアでスカウトの日々だ。
少女ヌードのブームが去ると、今度はAVのブーム、元アイドル歌手がAVにデビューすると大人気となり、それまで女優のルックスには多少目をつぶってきたAV界でも美形の女優が求められるようになる、とは言え、アイドルが続々とAVデビューすると言った状況にはならない、日本で調達できないなら・・・と酒井は再び南アジアに供給源を求めたのだ。
売春宿、風俗店を巡り、日本人好みの娘をスカウトする。
性病や暴力がはびこる劣悪な環境での売春よりも、日本でAVに出る方がはるかに楽で安全、しかも金になる、スカウトは大抵成功し、何人も日本に送り込んだ。
しかし、彼女たちは1〜2本目こそ健闘するのだが後が続かない、AVは大したストーリーこそないが、音の出ない写真集と違って日本語をしゃべれないのがネックになるのだ。
そんな折、スーの住む村の近くまでやって来た酒井はスーを訪ねてみようと思い立つ。
当時10〜13歳だったスーは日本のスタッフに囲まれているうちに簡単な日常会話ならできる様になっていたのだ、もう少しちゃんと教えれば・・・。
「久しぶりだね、スーは元気かい?」
スーの家の前まで来ると、母親が戸外で洗濯をしていた、家は多少手直しされたものの昔のまま・・・売れる様になってからというもの、スーへのギャラは毎回かなりの上積みをしていた、他所に引き抜かれては堪らなかったからだ、だから御殿とまでは行かずともそこそこの家が建っていても不思議はないのだが・・・。
母親は顔を上げ、酒井の顔を見て驚き・・・また下を向いてしまう・・・。
「忘れたかい?スーをスカウトした酒井だよ」
「もちろん憶えています・・・」
「スーは?外出中かい?」
「ここにはいません・・・」
「どこへ?結婚でもしたのか?」
「・・・・」
いやな予感がする・・・。
「まさか・・・売ったんじゃないよな?」
「・・・・」
声を聞きつけたのか、父親が顔を出す・・・昼間からかなり酒が入っている・・・。
「おい、スーはどうした?」
見当はついた・・・定期的にまとまった金が入る様になると父親は働かなくなり、酒びたりに・・・そして金が入らなくなるとまた困窮生活に逆戻りしたのだろう・・・。
「どこの売春宿だ?怒らないから教えてくれ、頼む・・・」
酒井は母親から聞き出した売春宿に向かった。
「スーって娘はいるかい?」
売春宿で訊ねるとオーナーらしき人物がニヤリと笑う。
「ああ、いるよ、だけど今客を取ってるところだ、スーは人気があってね」
・・・とりあえず無事でいることだけはわかった。
「他にもいい娘がいるよ」
「いや、どうしてもスーが良いんだ」
「だいぶ待つことになるが、いいのかい?」
「ああ、いくらでも待つさ」
「どこで聞いてきたのか知らないけどご執心だな、待つというなら構わないが、スーは相場よりだいぶ高いぜ」
オーナーが口にした金額は高いと言ってもこの国の常識での話、日本でならちょっと贅沢な昼飯を食えば飛んでしまう程度の金額だ、と言っても確かにこの国では破格の金額ではある。
「待たせたな、スーの体が空いたよ、ただし前金で頼むよ」
金を払い、スーの待つ部屋へと入って行く、さすがに高い料金を取るだけあって質素だが清潔な部屋、ベッドに座っている少女は向うを向いているが、背中から腰にかけての美しいラインには見覚えがある。
「スー」
「あ・・・酒井さん・・・」
「おふくろさんに聞いたんだ、ここにいるってね、いつ頃からだ?」
「一年ぐらい前から・・・」
俺を見て日本語で話す、忘れていないようだ。
四年前にはまだほんの少し膨らんでいただけだった胸も控え目だが美しく膨らんでいる、印象的だった目は四年前のまま、現在の境遇を反映してか少し翳っているが、却って魅力的に見える。
「スー、ここから抜け出したいか?」
「出来るなら抜け出したい・・・」
「日本に行くか?家族とも当分会えなくなってしまうが」
「今でも会えないから同じ・・・」
「日本でAVに出ることになるが、いいか?」
「AVって?」
「セックスを撮影したビデオだ、それを売る事になるが」
「ここでは毎日5人のお客を取らされるの・・・それよりは少ない?」
「ああ、ずっと少ない、ちゃんとした家に住んでちゃんとした食事も出来る、今は家族には金を渡しているのか?」
「ううん・・・私はここのオーナーの所有物だから・・・」
「自由になりたいか?」
「もしそう出来るなら・・・夢のよう・・・」