気まぐれ-2
〜気まぐれ〜2-2
あれから通勤電車の時間は、龍崎とのメールが日課になっていた。
最初は「僕」だったはずが今は「俺」と言い、互いの仕事の話や冗談を混じえた会話をする。
“もう寝ちゃった?”
返信が遅れると、返信する前にメッセージが届く。
(…こんな子だったっけ?もうちょっとチャラチャラして冷たいイメージだったけど、やっぱり年下だな〜。なんか犬みたい。)
知らなかった内側…
尻尾を振り懐いてくる龍崎が、可愛く思えていたのだ。
(…でもきっと会えば、お互い何かにがっかりするだろう。年上に興味がある年頃。今さら数年振りに、会う勇気は無いな…。)
そんなことを思いながら、毎日届く龍崎からのメール音に頬をゆるませていた。
“珍しく仕事が早く終わった。これから帰りだったりしますか?”
“丁度終わったとこ〜”
“会いたい。”
“今から会っても終電まで少ししか時間ないよ。また今度ね。”
“だめ。もう新宿着いちゃうから。
どーする?早く早く。”
(…会いたくない訳ではない。なんとなく恥ずかしくて、今さらどんな顔して会えばいい?)
返信を急かされ迷っている時間はなかったのだ。
(…どうしよう。会うチャンスなんて中々ないし…。)
“わかった。改札前にいる。”
気持ちには正直だった杏子。
返信するとお手洗いに入り、メイクを直す。久しぶりの再会にドキドキ鼓動を鳴らしていた。
“着いたよ。東改札いるけど、どこいる?”
10分もしないうちに、到着のメールが入る。
“そこで待ってて。すぐ行くから。”
リップを塗り髪を整え、龍崎のもとへ向かう。
(…ドッ…ドッ…ドッ…)
鼓動を感じながら、改札をキョロキョロ見渡し、龍崎を探す。
(…いた。)
数年振りに見る龍崎、スーツに身をまとい、身長が高くスラッとした立ち姿は、男の子ではなく男だった…。
声をかける前に杏子に気づき、向かって歩いてくる龍崎。
「久しぶり。」
「本当に会ってくれると思わなかった。相変わらず、小さいっすね。あーこたん?」
杏子(あんず)を「あんこ」と読み、「あーこたん」と昔から、からかっていた龍崎。
「またそんな呼び方して。龍崎くんが高いだけでしょ。」
「とりあえず飲みますか?あ。ご飯まだですよね?」
お互い変な緊張感を持ち、すぐに目を逸らし近くの居酒屋に足を向けた。
(…なんだよお。こんな変貌あり?)
「お疲れさまです」
とりあえず乾杯をする。
緊張感を隠すよう平然を装う。
「あれ?龍崎くんお酒弱かったよね?送別会で潰れてなかったっけ?」
「いやいや付き合いで連れまわされてるうちに、飲めるようになりましたよ。昔が飲めな過ぎただけ。」
「なんか大人になったね。」
「あ、これ俺の名刺。あげる。」
「ん?役職ついてる。」
「だから俺、仕事出来るって言ってるでしょ。信じてなかったのかよ。」
何も言わずに杏子を見つめる龍崎。
「ちょっと。何?///」
「いやー変わってなくて安心しました。」
「それどうゆう意味よ?」
少しずつ緊張は解れ、昔のように喋る2人。仕事の話や昔の話を楽しむ。
それでも、どことなく大人びた表情をするようになった龍崎を、男として意識してしまっていたのだ。