18歳、初めてのストリップ-1
1978年、俺は工業高校を卒業し、鉄工所に就職した。
浦和の郊外、畑の中に小規模の鉄工所が点在している中の一軒、従業員は俺を含めて7人だった。
正直、さほど勤労意欲に燃えていたわけではなかった。
中学、高校を通じて部活に打ち込むではなく、悪さをするわけでもなく、むろん勉学にいそしむわけでもなく、のんべんだらりと過してきた。
高校の卒業を控え、無論大学受験などするはずもなく、何か就きたい職業があるわけでもないので専門学校にも行く気はない、そう決めたら就職の他はない、勉強は出来ないから基本的に肉体労働、高校では建築学科だったから大工、鉄筋工、鳶などになる友達が多い中、屋外での仕事が比較的少ないという理由だけで選んだ仕事だった。
その年にその鉄鋼所に入ったのは俺だけ、随分と久しぶりの採用だったらしく、先輩達は一番若くて28、その次が33、その上となると50代ばかり、28と33の先輩はどちらも独身で、気が合うらしく二人して随分と遊んでいたらしい、入社して一週間した週末、二人に誘われた俺は二つ返事で応じ夜の街に繰り出した。
夕食を兼ねて居酒屋で一杯、スナックに場所を移してまた一杯。
未成年と言っても酒を飲んだことがないわけではなかったが、さほど慣れてはいない、ビールをジョッキ一杯、水割りを一杯、それですっかり酔っ払ってしまった。
「なんだ、もうグロッキーか?酒はここまでか、じゃ、趣向を変えるか、付いて来いよ」
そう言われて先輩に連れて行かれたのが「浦和ミュージックホール」だった。
かなり酔っていて劇場に入った時の事はあまり良く憶えていないが、既に始まっていたショーが目に入って来た瞬間、酔いは吹っ飛んで行った。
ステージでは俺とあまり歳が変らないように見える女の子が、既に全裸になって客席にせり出した小さな円形舞台で踊っていた。
「お、初めて見る娘だな、若そうだな」
週末の夜とあってかなり混みあっていた客席の後方の席に座った。
俺の目は舞台に釘づけになった、全裸で踊っている時の股間の繁みにさえ目を見張ったのだが、舞台の縁に腰を降ろした女の子が思い切り脚を開いてピンク色の肉まであらわにした時、脳天に電気が走ったような気がした。
「なんだ、ストリップは初めてか?」
そう聞かれたのは憶えているがどう答えたのかは良く憶えていない、しかし女の子の表情は恥ずかしさを堪えるあまりか泣き出しそうだったのは良く憶えている、それほど引き込まれた。
女の子が一礼して舞台から下がるとアナウンスがあった。
「高校を卒業したばかり、今週デビューしたてのリリーちゃんでした、応援よろしくお願いします・・・お待ちかね次の踊り娘は・・・」
高卒一週間目・・・俺と同じだ。
のんべんだらりとしていても女の子への興味は人一倍あった、一般向けの男性誌に飽き足らずに当時出始めたばかりのビニ本なども少ない小遣いの中からこっそりと買ってモロに性器が写っている写真などは穴があくほど見ていた。
しかし、工業高校というのは制度上共学でも女子は極端に少ない、学校全体でも数人だ、スポーツで目立ったわけでなく、勉強も出来ず顔も人並みの俺ではもてる筈もなかった、もっと積極的に遊び歩いたり暴走族に入ったりしていれば女の子と触れ合う機会もあったのかもしれないが、当時の俺としては人類の半分は女だというのがピンと来ないような境遇にあった、同年代の女の子というのは通学途中の電車や駅でチラチラと眺めるだけの存在、その制服の下に隠されている体に想像をめぐらす事はしょっちゅうだったが生身の女体を拝んだ事はなかった。
そういういわば憧れの女体を生で拝めただけでなく、脚までぱっくりと開いて・・・俺にとってはカルチャーショックと言ってもよかった。
「へえ、お前と同い年だってよ」
「ホントですかね、サバ読んでたりしないかな」
「ありえるけどな、でもちゃんとそう見えたぜ」
「確かにそうですね・・・おい、いいもの見れたな」
先輩たちに声をかけられても上の空だった。
やけにグラマーなコロンビア人、やけに細身のフィリピン人の舞台が続いた後、歓声を浴びて出てきた踊り子は「内藤 蘭」、解散したばかりの元アイドルグループの人気者に引っ掛けた芸名である事はすぐにわかる、そして本物には及ばないまでも面差しが似ている中々の美形・・・本物の方のファンでもあった俺にはまぶしく見えるほどだった・・・。
華やかな衣装を身につけての軽やかなダンス、そして衣装の下から現れたまばゆい体、その体に薄布を纏って「見えそうで見えない」男の興味を惹きつけるポージング。
そして円形舞台に進み出た「蘭」ちゃんは薄布をパッと投げ捨て全てを露わにした。
「同級生」の方はただじっと脚を広げているだけだったが、「蘭」ちゃんは舞台が電動で一周する度にポーズを変え、指で広げて見せたりお尻をふって見せたり・・・見せるツボを心得たテクニックで男の歓心を誘う。
そのアイドルの水着姿の写真に向って何度も「飛ばした」ことのある俺にとっては嘘のような光景だった・・・しかし、股間は痛いほどに硬直し、頭に血が上っていたものの、心の奥で少し嫌な気分もないではなかった、グラビア写真の中のアイドルはその瞬間だけは俺のもの・・・想像の中でだけだが・・・しかし舞台で回っている」「蘭」ちゃんは観客全部に彼女の全てを晒してしまっているのだ・・・目は釘付けになっているものの、ほんの少しだが幻滅も感じていた。