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THE 変人
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殻を破る-3

 「じーちゃん、ばーちゃん、居る??」
いきなり玄関の扉を開けて大声で叫ぶ。すると二人よりも早く颯爽と走って来たのは犬だった。もぎれそうなぐらいに尻尾を振り耳を下げて海斗に飛びついて来た。
 「おー、デルピエロ!元気だったか!?」
ほぼムツゴロウ状態で犬を抱き撫でる海斗。
 「デルピエロ??」
 「ああ。カッコイイ名前だべ??」
 「う、うん。て言うか変わった名前ね…」
デルピエロと名付けられたこの柴犬は海斗に良く懐いている。見ているだけで笑顔になってしまいそうな程の相思相愛ぶりだった。
 「そんな大声で呼ばなくてもまだ耳は遠くないよ。」
御年80歳になる海斗の祖母、葛城由紀恵が出迎える。
 「よっ!」
手を挙げて挨拶する。
 「あれ?そのお嬢さんは??」
海斗が人を連れてくるなど珍しい。しかも女性だ。不思議に思っても仕方ない。
 「ちょっと訳ありの知り合いってトコかな。あ、彼女じゃねーから勘違いすんなよ?メンドクセーから。」
 「アハハ!海斗にそんな若くて上品な彼女が出来る訳ないでしょうに!」
 「何だよそれ〜。」
不服そうな顔を浮かべた。
 「瀬奈といいます。訳あって今、海斗さんにお世話になってます。」
由紀恵は不審そうな素振りを一切見せずに笑顔で応対する。
 「瀬奈さんね?どうぞ上がって?海斗の家に比べたら大した家じゃないけどね。」
 「いえ、すみません、お邪魔致します。」
頭を下げて海斗とともに家へと上がった。中へと進む海斗と瀬奈。中には祖父の葛城鉄夫がいた。
 「よっ、じーちゃん!」
海斗は当然臆する事なく普通に挨拶するが、見るからに頑固そうな面構えだ。瀬奈は少し緊張する。
 「おー海斗!相変わらず頭悪そうな顔してるな!ん…?そちらは…?」
当然瀬奈が気になる。
 「さっきばーちゃんに説明してもう一回言うのメンドクセーけど言うと、訳あって面倒見ている瀬奈って言うんだ。」
 「お寛ぎのところ申し訳ありません。瀬奈といいます。宜しくお願い致します。」
深々と頭を下げる。
 「そ、そんな畏まらないでくれよ…」
柄にもなくソワソワしてしまう。
 「じーちゃん顔がコエーから緊張しちゃってんだよ!な?瀬奈!」
 「そ、そんな事ないです!(私に振らないでよ…)」
何と言っていいか分からない。しかし顔は確かに強面だが気持ちは良さそうな人だと瀬奈は感じた。
 「大丈夫だよ。じーちゃん変わってるけど意外といい奴だから!」
 「意外とは余計だ!」
海斗と鉄夫のやりとりを見て瀬奈は思わず吹き出してしまった。
 「ん?どうした??」
怪訝そうに瀬奈を見る海斗。
 「だって…、そっくりなんだもん!」
海斗が歳をとったらこうなるんだろうなと思わせるようなのが鉄夫だ。ついつい可笑しくて笑ってしまった。
 「ホント、似てるのよね、この二人。」
由紀恵がお茶を持ってきながら言った。鉄夫と海斗がそっくりなのは近所でも評判だ。照れながらも鉄夫はそう言われる度に嬉しかったりしていた。
 「まぁね。さ、座って瀬奈っ。」
 「うん。失礼します。」
座布団の上に座った。
 「しかしお前を見てると一体由紀夫は何だったんだと思うよな。あいつはホント真面目一辺倒だったからな。面白味も何もなかった。あの親から良くこんなのが産まれたもんだ。」
 「ま、隔世遺伝ってやつかな。でも俺は嫌いじゃなかったぜ、とーちゃんもかーちゃんも。」
 「ケッ!」
話には聞いていたが鉄夫は相当海斗の父親…すなわち自分の息子が嫌いであった様子だ。どうしてそこまで嫌うのか瀬奈は気になったが聞けなかった。
 「ところで海斗…、瀬奈さんとやらも場合によっちゃあ…」
鉄夫の顔つきが急に変わった。鉄夫の言葉を察し、海斗は遮るように言った。
 「じーちゃん、そんなんじゃねーよ。安心しろよ。その訳ありの訳は話すから。あのな…」
海斗は瀬奈との出会いから今までの事を包み隠さずに全て話した。鉄夫と由紀恵は疑う事など一切せずに海斗の言葉をじっと最後まで聞いた。
 「そんな事があって、今は預かるという形で一緒に住んでるんだよ。」
 「そうか…」
鉄夫も由紀恵もしんみりとした表情を浮かべながら少し沈黙した。
 「辛かったなぁ…可哀想に。苦労したんだなぁ…。」
強面が顔をクシャクシャにして泣いていた。海斗から見れば可笑しくて笑いそうになったが、瀬奈からすればそこまで自分を考えてくれた事が物凄く嬉しかった。気付けば涙が頬を伝っていた。由紀恵はハンカチで目頭を押さえて頷いていた。


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