変わらない場所-2
賑やかな駅前でタクシーが停まり、車から降りる。
無機質だけど華やかにライトアップされた駅ビルに、軒を連ねる飲食街。
仕事を終えたサラリーマンやOLで賑わう夜の街。
飲食街の大通りを一本中道に入ると、道幅は少し細くなり、そこに一軒、まるで隠れ家のようにひっそりと佇むダイニングバーがある。
永遠、永久という意を持つ『とこしえ』という名の刻まれた黒い木製の看板を眺めて安堵の息が出た。
看板と同じ黒い木製のドアを引いて、ゆっくりとカウンターに向かい歩くと、
「おっ、綾乃さん、お久しぶりだね〜」
カウンターの中から、いつもと変わらぬ静かで優しい店主の笑顔が私に向けられて。
「マスター、久しぶり」
閉塞感が抜けていくのを感じながら、頬が自然と緩みいつもの場所。カウンターの左から三番目の椅子に腰を下ろす。そんな私を見て、マスターは小さく頷いて、
「いつものでいいかな?」
「うん…、いつものでお願い」
短いやり取りの後に、食前酒にとカンパリソーダを差し出された。
カクテルをそっと一口喉流し入れると、
「綾乃さん、少し痩せたね? それに、いつも以上に疲れてる感じだ」
マスターは料理の準備をしながら笑みは絶やさずも、心配の色を含ませる声色で私に労いの言葉をくれた。
「…もうね、凄く凄く疲れちゃった…」
ずっと言いたかった言葉を溢したら、涙まで溢れてしまった。