壁越しの感情-2
〜壁越しの感情〜2-2
「ふぁーぁ。」
蹴伸びをし目覚めると隣で眠っていた椿はいなかった。
(…はぁ。昨日の椿可愛かったな…。
ヤっちまった…。)
ファンの全体は女ばかり。しかし、ファンの子に手を出せば、噂は一気に感染していく。上を目指すバンドマンに悪い噂はマイナスにしかならない。噂を排除できず消えていくバンドも少なくないのだ。
モテるはずのボーカル。全く女遊びをしていなかった。とは言えないが、ここしばらくは彼女も作らず、真面目にバンドに集中していた。
最後に抱いた女はいつだったのか?思い出せず、久々に他人の温度に触れた。
男なら誰でも不可抗力と言えるだろう。
一生懸命に頬張る顔が忘れられそうにない…。
しかし2度目があってはならないのである。罪悪感を感じても、期待をしてしまうのが男の性。
(…つか昨日別れたんだよな?
まだ別れ話の途中か?)
興味が無かったはずが今は、隆二との詳細が気になって仕方ないのである。
(…仲直りしてたりして?)
別れていて欲しい気持ち。それは弟としてなのか…
自身でも理解しきれていない感情に胸を締め付けられた。
(…とりあえず、普通にしておくか…。)
今日はバンドの音合わせの為、借りているスタジオに入る。
葉月「おせぇーよ。ボーカルも早く来い。」
蓮「だって先に楽器隊が音合わせしないと!歌えないだろ?それにボイトレ行ってから来たし!ほれ差し入れ。」
陽「丁度腹減ってたんだ。さんきゅ。」
桜巳「俺の分は?」
蓮「それ食ったら、もういける?」
葉月「とりあえず音は完璧。」
蓮「おし。」
差し入れを嬉しそうに受け取るメンバーの横で、発生練習を始めた。