風呂上がりの夜空に-5
だがシホはソファーの隣に居座って、なんだかんだと茶々をいれ始めた。
やれローカル線の駅舎が古くさいの、民宿がぼろっちいの、女将の化粧が濃いの、活け作りにした魚の顔が気持ち悪いの・・・。
ユウジはイライラを募らせていった。
悪気がないのはわかっている。思ったことを口にしているだけだ。要するにデリカシーがないのだ。
まあ美人といえる容姿は母親似だが勤労意欲は遺伝しなかったらしく、かわりに奔放すぎる人間性が父親譲り。
いや、そう決めつけてはさすがに呑気な父親も、名誉毀損で訴えかねない。
何しろシホの性格ときたら、適当でそそっかしくてガサツで非常識で、無駄に明るくおまけに無神経ときてる。
わかってる。わかってはいる。
ただ・・・。
（いい加減にしてくれ！）
さすがのユウジも堪忍袋の緒が切れかかっていた。
こういう番組は世知辛い日常のささやかな癒しなのに、煩い姉のせいでちっとも頭に入ってこない。
楽しみにしていたのに台無しだ。
そんな弟に気づきもせず、シホはさらに破壊力のある地雷を踏もうとしていた。
場面はレポーター役の女性タレントが、民宿自慢の露天風呂に入ろうとしているところだった。
「あー！わかった！これが目当てだったんだ！」
ばかでかい声が、のどかな風景を愉しみながら温泉を堪能する、なごやかなシーンをぶち壊した。
「エッチ！ユウちゃんのスケベ！」
確かに女性タレントは素肌にバスタオルを巻いている。
だがこれは、お色気とかポロリとかを期待するような、そういう番組ではない。タオルがはだけるような事故も絶対にない。
シホもわかっているはずだった。
ただ弟をからかうネタを見つけて嬉しくて仕方ないのだ。