這いまわる三十人の手-2
さらさらと鉛筆が紙を滑る音が鼓膜をくすぐる。――みんなあたしの裸を見て、あたしの裸を描いてるんだ。
「はあぁ……んん……」
早紀はこらえきれず、悩ましげな吐息を洩らした。愛液は糸を引いて垂れ、床にぽとりと落ちる。
「桃井さん、腰を振らないで。見られて昂奮するのは自由だけど、デッサンのモデルだってこと忘れないでね」
「やだ、あたし昂奮なんてしてません!」
「大洪水なのによく言うよ」
と男のひとりが言い、まわりがどっと下卑た笑い声を上げた。
「いったんここで休憩にしましょうか。桃井さん、椅子に座って」
京佳先生がそう宣言して、早紀は四つん這いから立ち上がり、丸椅子に座った。その拍子に愛液がだらりとこぼれてふとももをつたう。
「みなさんの絵は、この素晴らしい肉体を持つモデルのすがたをまったくとらえられていません。まるで平面のイラストを模写しているみたい。質感や立体感をもっと意識して描いてください」
「質感や立体感かあ……」男のひとりが呟いた。
「そのためには、モチーフをよく知ることが大切です。もちろん視覚がいちばん重要だけど、五感を研ぎ澄ませれば、モチーフのほんとうのかたちが見えてくるの。肌触りや温度……。それを知らなきゃ、生きた絵は描けない」
耳を傾けながら、いったい京佳先生はなにを話しているのだろう、と早紀は訝しんだ。教室内の男たちのあいだにただよう空気も、こころなしか変わってきている。
「そこで今日は、みなさんにモチーフをよく知ってもらおうと思います。ひとり一分ずつ、モデルさんのからだを触ってください。それじゃあ、菅沼さんから時計まわりに」
「え? からだに触るって、そんな!」
仰天して京佳先生の顔を見る早紀に、立ち上がった菅沼さんが近づいてくる。加齢臭がぷんとにおった。
「お嬢ちゃん、失礼するよ」
そう言うなり、菅沼さんが背後から抱きつくように早紀の乳房を鷲掴みにした。
「きゃ、きゃああぁっ!」
「ようやくこのおっぱいに触ることができて嬉しいなあ。こんなに大きくて中身のみっちり詰まったおっぱいをぶら下げてて疲れないかい? おじさんが揉みほぐしてあげよう」
菅沼さんはしわだらけのかさついた手で、早紀の乳房を揉みはじめた。ぞわぞわとした感覚が乳房を駆け巡る。
「吸盤のように手に吸いついてくる肌だねえ。まるでお嬢ちゃんのおっぱいが私に触ってほしがってるみたいだ。ほら、揉まれている自分のおっぱい、よく見てごらん」
菅沼さんの手に弄ばれて、早紀のグレープフルーツサイズのまるく大きな乳房はぐにぐにと変形している。
「ん……ふぅんっ……やだぁ、恥ずかし……」
「はい、一分経過。つぎはマツさんね」
京佳先生がそう告げた。
「もう一分経ったのかい。あっというまだったなあ」
菅沼さんが名残惜しそうに早紀から離れた。マツさんと呼ばれた老人が近寄ってくる。
「失礼するよ。わしはずっとこの乳首に触ってみたかったんだ。先々週はじめて脱いだときは陥没気味だったのに、いまじゃすっかり勃起してこりこりになってるじゃないか」
マツさんは触れるか触れないか、という絶妙なタッチで早紀の薄桃色のぷっくり膨らんだ乳首に指の腹を這わす。
「ふぅっ……んっんんっ……くぅう……」
早紀は膝をこすりあわせながら、むず痒さに耐えた。
「もどかしいかい? 乳首を強く摘まんでほしいだろう?」
マツさんはつんつんと乳首を突きながら囁く。
「いやっ……そんなことない……んああっ!」
「そろそろ一分よ」と京佳先生。
「お、そうか。じゃあ最後に」
マツさんはきゅっと乳首を摘まみ、指さきで細やかに揉みしだいた。
「あっあああんっ! んんんっ――!」
早紀は突然襲ってきた快感に、くちびるを噛んで耐える。