「兄嫁」-8
限界だと思った雄二は、体を起こすと、大きく勃起しカウパー腺液まみれになっているペニスを握って、グッと真季の秘部に押し付けた。
「あっ、だめ!」
真季が慌てて声をあげる。しかし、もはや止めることはできなかった。亀頭の先に愛液のぬめりを感じた直後、雄二はたまらず腰を突き出したのだ。屹立した肉棒がずぶずぶと真季の膣に潜り込んでいく。
「ああっ…」
雄二は声にならない快感の声を吐き出した。こんなに気持ちがいいのは、生まれて初めてだった。
今にも射精しそうになるのを必死で耐え、真季の体を抱き締めると、唇に、頬に、首筋にキスをした。
「ああ…、だめ…、やめて…」
真季の哀しげな声に、雄二はハッとした。自分はいけないことをしているんだという罪意識が強く湧いてきたが、すぐに、真季とつながっているという快感と興奮がそれを上回った。
雄二は腰を使い始めた。肉襞にペニスをこすられ、何度も暴発しそうになりながら、その都度、なんとか踏みとどまった。
しかし、それも長続きしないのは明らかだ。
「あん…、あっ…、あぁ…」
真季のよがり声が雄二の興奮を煽る。もうこれ以上、雄二に耐える術はなかった。肉棒が脈動を開始し、溜まった白濁液が真季の体内に向かって噴出していく。
数秒遅れて、真季の体を大きな痙攣が走り抜けた。ふと見ると、真季の右手が股間にあてがわれている。彼の肉棒を迎え入れたまま、真季は自らの指で秘部を愛撫していたらしい。
射精の余韻を味わいながら、雄二は真季の体を抱き締める。
すると、閉じた真季の目から大粒の涙がポロポロこぼれ落ち、裸の胸を熱く濡らした。
「ごめん…」
その声が引き金になったかのように、真季が小さな声を漏らして泣き出した。雄二は掛ける言葉が見つからず、ただ、真季の髪を優しく撫でていた。
「こ、このことは…、雄二君と…、私だけの…、秘密にして…」
真季が涙声でそう言った時、二人は「共犯」になった。
雄二が真季を抱いたのは、その時一回だけだった。
数日後には両親が旅行から帰って来たし、浩一も意外に早く新しいマンションを見つけて、すぐに引っ越して行った。
以前と変わらない日が戻ってきたが、それ以来、雄二は見違えるように勉強をするようになり、翌年の春、見事に大学に合格した。しかし、それは、当初の志望校の慶稲大学ではなかった。兄と違う大学、そして、兄と違う進路を選んだのだ。もやは、浩一は雄二の憧れの存在や自慢の兄ではなかったし、競争相手でもなかった。
それから二、三か月経って、浩一から電話があった。
「よろこんでくれ、真季に子どもができたんだ。どうやら、うちにいる時にできたらしいよ。」
浩一がそう言っていたと母から聞いた雄二は、心の中にムクムクと疑問が湧き起こってくるのを感じた。しかしそれは、けっして口に出してはならない疑問である。
それから2年程の月日が流れた。
「ただいま。」
雄二が大学から帰ってくると、玄関に黒い紳士物の革靴とネイビーブルーのおしゃれな婦人靴、そして、掌に乗りそうな小さな可愛い靴が並んでいた。
「おう、雄二、元気にしてるか!」
浩一はいつも変わらない口調で声をかけてくる。その横で、以前にも増して美しい真季が、膝の上に小さな子どもを乗せて、にっこりと笑っていた。
膝の上の幼児は、雄二を見ると、ニコニコ笑いながら手を伸ばし、口を開いた。
「パパ…」
「おっ、直人がしゃべったぞ!」
浩一がうれしそうな声をあげた。
雄二が凍りついたように見つめる幼児は、無邪気に微笑みを返してくる。
「きっと、直ちゃんは、雄二叔父さんが好きなのね。」
穏やかにそう言った真季は、そっと子供を抱き上げると、優しい微笑みを浮かべて雄二を見た。その姿は、ラファエロの聖母子を連想させ、雄二はただ黙って見つめていた。