離れて行かないで-1
これが危機的状況だってのは火を見るより明らかだ。
照明に照らされる沙織の顔が青白くて、ゾクリと、鳥肌が立つ。
「おい、大丈夫か!?」
血相変えて駆け寄る歩仁内に、本間さんが泣きながら話し始める。
「沙織ちゃん、ずっとペース落とさないで飲んでて、静かになったなあと思ったら……」
「……急性アルコール中毒か」
俺の予想と同じ答えを出した歩仁内の唇が小刻みに震えていた。
春先のニュースでたまに耳にする言葉。
新入生の歓迎会だったり、花見の場だったり、楽しく飲む場所でハメを外し過ぎた若者が、急性アルコール中毒で病院に搬送されたと言う話はよく聞く。
よく聞く話だからよくある話かもしれないが、ニュースになるのは、それが原因で死亡する人がいるからで。
もしかしてそれが沙織にも起こり得るかもしれないと思うと、身体がガタガタ震えてきた。
さっきの沙織の飲みっぷりが蘇る。
水を飲むように酒を飲んでいた沙織は、ビールだけじゃなく、サワーやカクテルなんかも飲んでいた。
沙織が酒を飲んだことがあるのか、あるとすれば強いのか、それもわからない。
いや、たとえそれがわかって、酒が強かったとしても、あんな浴びるように飲んで、しかもちゃんぽんで。
それでぶっ倒れてしまったこの状況。
これって相当ヤバいんじゃ……!
「土橋くん、急性アルコール中毒ってどうすればいいの!?」
「吐かせれば楽になると思うけど……あとは、水飲ませて身体の中のアルコールを薄めるとか……」
石澤さんにどうすればいいのか訊ねられた修も、どんな処置が正しいのかハッキリわからず、声が弱々しい。
確かに吐いてスッキリしたとか、水を飲ませたりとか、そんな対処法は聞いたことがある。
だけど、ぐったり動かない沙織を見てると、水もまともに飲めなそうだし、かといってオロオロ何もしなかったら大変なことになるかもしれない。
気付けば俺は州作さんの前に立ちはだかって、奴の両肩をガシッと掴んでいた。