求愛リスト-1
1.
「結婚したいと思ったら、候補者のリスト位作って置かなくちゃ。好みもあるし、誰でもいいって訳にはいかないだろう」
ワインが程よく回って、口の滑りがいいままに、仁科正彦は能弁になっていた。相手は、1年程前に離婚した、子連れの37歳の女である。竹下真帆といった。
「OKしてくれそうかどうかだって、なんとなく感じで分かるじゃない。そう言う相手のリストを作っておいて、チャンスを狙うのさ」
月に一回の割で集まる、食べ歩きの会の仲間である。主にエスニック料理店を訊ね歩いている。料理の種類によって、集まる顔触れが変る。
真帆に離婚の噂が立って、しばらく顔を見せなくなった。
やっと落ち着いたのか、正彦にもしばらくぶりの顔合わせであった。
痩せぎすで、正彦の好みではなかったが、久しぶりに見る真帆は、一頃のやつれた顔にも明るさが戻り、中年の成熟した艶めかしささえ漂わせている。
ワイングラスを、白魚のような指が支える。透き通る様な白さに、ほのかにピンクがさして、繊細な膨らみが感触の好さを思わせる。
(あんな指で弄って貰ったら、さぞ気持ちが好いだろうナ)
陰茎にまつわり、亀頭の裏をもてあそぶ指先を脳裏に浮かべると、雁首が疼いた。
(好い女になったな)
と正彦は思った。
真帆が、
「誰か貰ってくれる人、いないかしら・・」
と言ったのをきっかけに、先ほどから、周りの席の者が、夫々無責任なアドバイスで騒いでいた。
正彦の候補者リスト発言に、真帆が反応した。
「でも、仁科さん奥さんいらっしゃるのに、そんなリスト作っているんですの・・」
真帆が顔を正彦に向けた。
正彦は、たった今頭の中で想像していた事を見透かされはしないかったかと、一瞬慌てた。
「奥様公認さ。女房が先に死んだら、どうぞ再婚して下さいって言うから、今から準備しているのさ。考えてるだけでも楽しいよ」
「あら、そんなこと言って、奥さんに聞かれて、土下座をするんじゃありませんの…」
正彦は答えず、笑顔にウインクをして見せた。
2.
割り勘の勘定が済むと、思い思いに席を立って、出口に向かった。
「仁科さん、出来ましたら、乗せてって頂けません?」
真帆が、正彦の脇に近づくと声を掛けた。
「ああ、いいですよ」
「出しなに、車が具合悪くって、電車で来たもんですから」
真帆は、聞かれもしないのに言い訳をした。
真帆の家は、少し回り道になるけれど、ほぼ同じ方角なので、以前にも送っていったことがあった。
助手席に落ち着くと、真帆は正彦に顔を向けた。
「お酒飲んでいて、大丈夫ですか」
「グラスに1杯で止めといたから、大丈夫。これでも用心深いんですよ」
シートベルトをたぐる正彦の肩が揺れて、空気が動く。
男の匂いが、吸い込む息に交じって、真帆の鼻の粘膜を刺激した。
それは、甘く切ない。
離婚してから、男にはご無沙汰していたから、敏感になっているのかしらと真帆は思った。
「真帆さん、しばらく見ないうちに、すっかり艶っぽくなって、いい女になりましたねえ。離婚して良かったのかなあ」
「さあ、どうでしょう。でも、仁科さんにいい女になったって言われたら、嬉しいわ。前はどんな女だったのかしら」
「正直言って、なんかガリガリで、あまり魅力的ではなかったなあ」
「まあ、色々とありましたからねえ。最近楽をしているせいか、腰の周りに肉が付いてきて、気にしてますのよ」
「まろやかさが出て来て、中々いい感じですよ」
「あら、どうしましょう。それなら、後妻さんのリストに載せて頂けますかしら?」
「考えて置きましょう」