15章-2
「飲みなれると、グレープジュースみたいです」
結構いける口なのかもしれない。
両手でグラスを握りしめる姿が愛らしくて、鏡哉はその長い髪の毛を指先で梳く。
しっとりとした手触りが気持ちいい。
触られている美冬も気持ちいのか、目を細めて体を委ねている。
「美冬の『初めて』をまた貰ったな」
そう呟いた鏡哉を美冬が見上げてきたので、美冬のグラスを指さして示す。
「初めてのお酒」
「それだけじゃないですよ、初めてのリゾットに初めてのフォアグラ、初めてのキャビア、あと、トリュフでしょう、大トロでしょう?」
美冬はそう言って楽しそうに指を折って数える。
食べ物ばかりを挙げる美冬に、鏡哉から笑いが零れる。
「処女もね」
髪を掻き上げて耳の傍でそう呟くと、美冬の体がびくりとわななく。
「き、鏡哉さん!」
空になったシャンパングラスを美冬の手から取り上げると、傍のテーブルに置く。
「美冬が食べたくなった」
鏡哉はそう言うと、美冬のお尻の下に腕を入れ軽々と持ち上げた。
視線が同じ高さになる。
暗いベランダでも美冬が真っ赤になったのが手に取るようにわかる。
「鏡哉さん、なんかフワフワする……」
酔っぱらったのか美冬が体を預けてくる。
暖かい体温が夜着を通して伝わってくる。
(ああ、この暖かさがあれば、もう何もいらない――)
鏡哉も酔ったのか、そう感傷的な気持ちが胸の中で膨らんだ。
「もっと、酔わせてあげる――美冬」
そう言って美冬を抱きしめなおすと、鏡哉は寝室へと足を踏み入れた。