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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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15章-1



 金縛りだろうか。

 体が重く、動かない。

 指先さえも自分の思い通りにならず、唯一目だけが自由になる。

 周りを見渡すとそこは、見覚えのある日本家屋の住み慣れた一室。

 夏の暑い空気が撹拌されることなく、部屋の中に溜まっている。

(またか……)

 小さな口元から、深く細い溜息が漏れる。

 ずる。

 ずる。

 畳の上を何か引きずる様な音を立て、それが近づいてくる。

 漆黒の闇が、ひたひたと自分の足元から這い上がってくる。

 急激に湿度が上がったような、重く気持ち悪い空気が体に纏わりつく。

 華奢な足の先から暗い闇に浸食されていくが、それを阻止する術を自分は持たない。

 ぴちゃり。

 足元から水音がする。

 ぴちゃ。

 体の中心を這いまわるそれは、体だけでなく淀んだ思考までも支配していく。

 気持ちが悪い。

 喉元に酸っぱいものが込み上げてくる。

 吐き気を必死に抑えていると、眦(まな)じりは涙が溢れ、視界が霞む。

 黒く明確な形を持たないそれが、生暖かい息を吐きながら嗤う。



   「お前は、私のもの――」 



 ぞくりと悪寒が全身を覆う。

 指先を見ると、浸食はそこまで進んでいた。  

(やめろ、

 やめろ、

 やめろっ――!!)  





「―――っ!!」

 はっと目を見開くと、そこはほの暗い闇の中だった。

 先ほどまでとは違い、涼しい空気が汗ばんだ頬を撫でる。

 男の割に長い睫毛を瞬かせながら、混乱する頭で周りを確認する。

 壁の間接照明が部屋の中の様子が分かるくらい周りを照らしていた。

 マンションの寝室だ。

(夢、か――)

 鏡哉は無意識に詰めていた息を吐き出し、強張っていた体の力を解く。

 眠っていたというのにまるで全力疾走をした後のように、疲労が蓄積している。

 しかしもう眠れるような気がせず、鏡哉はゆっくりと体を起こした。

 視界にすやすやと寝息を立てる美冬が目に入る。

 いい夢でも見ているのだろうか、口元が緩んでいた。

「………」

(食べ物の夢でも見ているのだろうか?)

 くすり。

 鏡哉の口から笑みが漏れる。

 気持ちが少し楽になり、鏡哉は息を吐き出した。

 美冬を起こさないように額にそっと口づけると、鏡哉は寝室を出た。  

 キッチンに入り冷蔵庫から、シャンパンのハーフボトルを取り出す。

 シャンパングラスを持ってリビングへ移動すると、外は雨が降っていた。

 ガラス戸を開けると、すこしむっとした夏の空気が体を撫でる。

 ベランダに出て鉄製のベンチに腰を下ろすと、ポンと音を立ててシャンパンを開栓しグラスに注ぐ。

 しとしとと降り続く雨音を肴にグラスを傾けると、自然と気持ちが落ち着いた。

 子供の頃から繰り返し見る夢。

 その正体が何かも解っている。

 頭で考えても仕方のないこと、そんな事は人生の中で往々にしてある。

 ただ最近は見ていなかったので、少し疲れただけだ。

 背凭れに体を預け、暫し眼を閉じる。

 しとしと。

 雨音の控え目な音が鼓膜を揺らす。

 酔いが回ったのだろうか、頭の隅が少しぼうとする。

 一つ大きく息をした時、背中から暖かい何かに包まれた。

 長い黒髪がさらさらと鏡哉の頬に触れる。

「……美冬?」

 首に回された華奢な腕にそっと手を添え、その名を呼ぶ。

「お酒、飲んでるのですか?」

 美冬は抱きついたまま、小さな声で尋ねてくる。

「ああ」

 グラスを持っていないほうの手で美冬の手を解くと、隣に座るよう促す。

 しかし美冬は鏡哉から離れ、ベンチの隅に座った。

「なんで離れて座る?」

「だって」

 美冬はその赤い唇を尖らせる。

「鏡哉さん酔ってるとき、ちょっといじわるだから」

「……そう?」

 確かに酔っている時はいつもより少し執拗に美冬をからかったり、抱いたりしているような気がする。

 鏡哉は気にしないで美冬の肩を抱き寄せた。

「飲む?」

 シャンパンのグラスを差し出すと、美冬は恐る恐る受け取る。

 シュワシュワと音を立てて注いでやり「飲むのは泡だけね」と釘を刺すと、美冬は「子ども扱いしないでください!」と可愛らしく頬を膨らませた。

 美冬はグラスに口を付け、こくりと飲み下す。

「美味しい?」

「う〜〜ん、ちょっと苦いですが、美味しい……かな?」

 首を傾げそう言った美冬はもう一度口を付け、ぐびと飲む。

「飲み過ぎるなよ」

 鏡哉は自分が高校の時から酒を飲んでいたのであまり強く美冬を止めることもできず、一応注意しておく。



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