庶民なのです-8
……けれど、異変を感じたのはプリモ・ピアットのペスカトーレを完食し終わった頃だった。
輝くんより、少し遅れて食べ終わると、ウェイターが機敏な動作でお皿を下げていく。
「次は何だろう」
なんて呟く輝くんに、かろうじて笑いかけながら、私はみぞおちの辺りをこっそり抑えていた。
……お腹、痛い。
空きっ腹に食べ慣れない高級料理を食べたから胃がびっくりしたのか、みぞおちの周辺がジクジク痛む。
一旦それを意識し出すと痛みはどんどん広がっていくような気がして、果ては忘れていた靴擦れの痛みまでもが再燃したように脈打ち始めた。
「セコンド・ピアットの金華豚のガーリックソテーです」
程なくして運ばれてきたもう一つのメイン。
ニンニクの香ばしい香りに食欲がさらに駆り立てられるはずなのに、お腹の痛みでそれどころじゃない。
「里枝、汗すごいけど大丈夫か?」
さっきまでの私なら、運ばれてきた料理にいちいち感嘆の声を上げていたのに、そうしなかったからか輝くんが心配そうにこちらを見る。
「う、うん……なんでもない」
ニッコリ笑って見せても、それがぎこちなく映るのか、彼は心配そうな顔のままこちらを見ている。
せっかく5千円も出したランチだから無理してでも食べなきゃ。
根っからの貧乏人根性もあるけれど、それよりもここでお腹が痛くてデート終了になることの方が嫌だった。
でも、輝くんも私の様子ばかり気にしてなかなか食が進まない。
私も平気なふりして金華豚を食べるけど、美味しさよりもお腹の痛みが辛い。
滲む脂汗。歪む視界。
――そして。
「お、おい! 里枝!」
輝くんが私を呼ぶ声だけが、耳の奥に響いていた。