庶民なのです-5
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天慈くんの話では、予約したレストラン「ディアマンテ」は、ドレスコードはスマートカジュアルでOKとのことだった、のに。
「り、里枝〜、俺達こんな格好でホントに大丈夫なの?」
私の肩を掴む手に、更に力を込めた輝くんが、入り口前で情けない声を出した。
「だ、大丈夫だってば! 天慈くんがスマートカジュアルでいいって言ってたんだから!」
そう言い聞かせるように強く言ったものの、目の前の光景に、勝手に膝がカクカク震えてくる。
エレベーターの扉が開けば、シミ一つない深紅のカーペットがレストランのエントランスまで続いているし、その先にあるお店の天井にはきらびやかなシャンデリアの優しい光がウェイティングルームを照らしていて。
天使をあしらった白い彫刻、生花をふんだんに使ったアレンジメント、ビロード張りのワインレッドのソファー。
ウェイティングルームだけでこんなに格調高い様子を見せつけられると、庶民派は不安になる。
ホントに一人5千円で足りるのか?
たかがランチと侮っていた数分前の自分を呪いたくなる。
「な、やっぱり店変えない……? 俺、ファミレスで充分だよ」
「な、何言ってんのよ! ここ、すごく人気があって予約取りづらいのを、やっと天慈くんに手配してもらったのよ! 今さら他の店に変更なんてできるわけないじゃない!」
「でも、お前だって足震えてるじゃん」
「もう、これは武者震いよ!」
強がってるつもりだけど、端から見れば、田舎者が頑張ってこのレストランにやって来ました感が丸出しらしく、私達より後からきたセレブ夫婦らしき男女がクスッと笑っては店に入っていった。
「……ほら、笑われちゃったじゃない! モタモタしないで入るわよ!」
声を潜め、輝くんを急かすけど。
「わ、わかったよ。里枝、先に行って」
なんて、情けないことを言う。
あー、もう! どうしてこの人はこうなんだろう。
「ちょっと! 普通こういう場合は男がエスコートするもんでしょ!」
「店決めたのはお前だろ、お前が先に行けよ」
「嫌よ、こういう時くらいスマートにエスコートして、頼れるとこ見せてよ!」
声を潜めながらも、どちらが先にお店に入るか押し問答する私達。
あまりにヘタレな輝くんに、イライラが募る。