エピローグ:吟遊詩人はうたう-1
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パチパチというたき火の音と、優しいハープの調べ。
その音で、私は目を覚ました。
「気がついたみたいだね。」
声のした方――たき火の向こうに目をやると、ひとりの男の人がすわっている。
その手元にはハープ。耳が少し、とがっている…エルフの吟遊詩人、だろうか。
「草原の真ん中で、君が倒れていたものだから。」
そう言われて、気を失う直前のコトを思い出す――同時に自分が今、ハダカなのにも気がついて、あわてて毛布を引き上げた。
「あぁ、ごめん。でもあのまま放っておいたら、次は何に襲われるか分からないから。悪いけど、勝手に運ばせてもらったよ。服も、そこに置いてある。」
彼が指さした方を見る。たき火から少しはなれた所に、私の服がきれいにたたんで置いてあった。その一番上で、サツキさんからもらった「破惑(はわく)のピアス」が、たき火の光を照り返している。
「『破惑のピアス』…結構なマジックアイテムだね。でも、まほうつかいには効かないよ。」
私の視線を追った彼が、私の疑問に先まわりして答えてくれる。
「あいつらの魅了魔法は、設置型なぶん強力だから。上級淫魔レベルの効き目がある。…逆に、使える魔法はあれひとつきりだから、魔法陣さえ上手く避ければ、いい経験値かせぎになるよ。」
私を新米勇者と思ったのだろう、丁寧に解説してくれた。・・・まぁ、実際まんまと引っかかったワケだから、文句は言えないけれど。
「さて…目が覚めたんなら、すぐそこに川があるから行ってくるといい。さすがに、勝手に身体を洗うことはできなかったからね。」
言われて、自分の身体を見下ろす。そこかしこに、かわいた汗や体液の跡――快感の名残がしみついていた。
「ここは、いつも僕が使ってる夜営地だから。滅多にモンスターは出ないし、とりあえずはゆっくり水浴びしてくるといいよ。僕はここで、たき火の番をしてるから。」
――衣服を胸元に抱えて、いそいそと川に下りていく背中を見送ってから、僕は少し、物思いにふける。
…エルフの寿命は長い。
これまで色々なところを旅して、色々な人に出会って、色々な詩(うた)をうたってきた。
ここは、剣と魔法の世界――初めてそううたったのは、どれほど昔のことだったろう。
これまで何人の男と、女と、そして――その両方を併せもつ勇者と出会っただろう。
またひとつ、心に詩想が浮かぶ。僕は、それをハープにのせて紡いでみる。
――ここは、剣と魔法の世界。
物語られるは、両性具有の勇者と、両性具有の魔王が奏でし。
果つる底無き、交合(たたか)いの輪舞曲(ロンド)――