翼をください-6
それから数時間たった頃、泣き疲れたリョウツゥのお腹がくるると鳴った。
(……どんなに悲しくても……お腹は減るんだ……)
生きているのだから当たり前なのだが、少しは空気を読め、と自分の身体に突っ込みたい気分になる。
(そうか……私……生きてるんだ……)
リョウツゥは冷たく固くなったバインの手を見つめる。
飛んでくれ
そう望んでくれた愛しい人の、最期の言葉。
バインの後を追うにしても、それを叶えてからでも遅くないかもしれない。
(じゃないと向こうで会った時にムチャクチャ怒られそう)
リョウツゥはクスリと笑って、もう1度バインの手をキュッと握った。
「バインさん、お荷物いただきますね」
最後に冷たい手に唇をつけて、リョウツゥは岩の隙間を進み出した。
「私、絶対、飛びますからっ」
リョウツゥは新たな気持ちで前に進む。
だが、その先には『死』というゴールしかなかった。
何とか瓦礫の中から這い出したリョウツゥは、バインの住んでいた場所を探す。
何もかもが崩れて滅茶苦茶だったが、バインの住処はかろうじて無事だった。
歪んで動かないドアを諦め、崩れて壊れた壁から中に入る。
バインはいつも大事な物をひとつにまとめて置いていた。
それを見つけたリョウツゥは急いで外に出て、まだ微かに揺れが続く山を降りる。
この災害で姿が見えなければリョウツゥは死んだ事になるだろう。
陰送りの場所に救助が来る事はまず無いのだから。
だから、死んだ事にして、死んだつもりでバインとの約束を叶えるつもりだ。
リョウツゥの足は自然と、王都クアトリアへ向かう。
バインが話してくれた夢の都へ。
ー続くー