4. Speak Low-8
平松が押し入るなり悦子の壁は男茎を搾り、中へ引きこむように蠢いていた。
「もおっ……」
「じゃ、抜いて付け直す……?」
男茎が引かれていって、傘を門に引っ掛けるまでにされると、
「だめっ、抜いたら」
と悦子は腰を揺すって制していた。
「いいの?」
「……エ、……エッチなこと言って?」
抜け出そうになっていた平松の男茎が一気に進んできて打突を見舞うと、
「……すっごい、ヤラしいオマンコだね。生のチンポのみこんでる」
「んっ……、もっと、言って……」
「お尻の穴も丸見えだよ。……悦子は、俺のドレイだよね? ぜんぶ俺のものなんでしょ?」
また一度、強く平松の下腹と悦子のヒップが鳴った。
「あうっ……、んっ……、そうです。翔ちゃんじゃなきゃ……、もうだめなの」
「悦子っ……」
平松が息を切らして送り込んでくる打突の間隔がだんだんと早まってくる。
「やっ……、あっ、翔ちゃんっ……、愛してるって、言ってください……」
「悦子、愛してるよ。俺も、悦子じゃなきゃ嫌だよ」
平松の言葉に心臓が鷲掴みにされて引き寄せられるかと思うほど身が竦み、
「いく……、また翔ちゃんで、いきそう。もう一回言われたら、……いく」
譫言のように繰り返しながら垂れ落ちる髪を振り乱してかぶりを振った。
「愛してる、……悦子っ。……ずっと一緒にいようね」
掛川駅から在来線に乗り換えて漸く最寄り駅に着いた。駅舎を出ると平松はまたキョロキョロと駅周辺の風景を見回した。挙動不審だ。スーツ姿は会社で見慣れている。異動した頃のようなくたびれたスーツでも靴でもない。客先でも好感が持たれるように、随分引き締まったとはいえまだ負っているルックスのハンディをなるべく補ってシャキッと見えるようなフォルムのものを悦子がアドバイスして着せているから、悠然としてくれればそれなりに見れる姿になるのだが今日ばかりはそうはいかないらしい。
「駅前、ほんと何もないでしょ?」
「うん」
「こら、田舎扱いすんな」
「あ、ごめん」
和ませようとしたが、緊張が全くほぐれていない。ま、しょうがないかと悦子が時計を見るとちょうど11時だった。顔を上げるとロータリーを見回すまでもなく一台しかいない軽バンの助手席の窓が開いて手が振られている。
「悦ちゃーん」
手を振っているのは兄嫁だった。そちらの方へ歩いて行くと、助手席から降り立った兄嫁が『権藤工務店』と書かれたスライドドアを開けながら迎える。
「迎えに来てくれてありがとう」
「いやぁ、言うてくれたら掛川まで行ったのに」
兄嫁は悦子と話しながらも、その背後の平松をチラチラと伺っていた。悦子は平松が口を切るのを待っていたが一向に割り込んでこない。こら、転属してきた時のキャラに逆戻りしてんじゃん。悦子は身を横によけて兄嫁の視界に平松の全貌を映すと、
「えっと、これが――」
何と言って紹介する? 兄嫁は悦子が初めて実家に連れてきた恋人を一秒でも早く見ようと、迎えに行く兄についてきたに違いない。兄と同じ歳だから悦子よりも一歳上で、普段は男の子二人の母親として逞しいが、こういう時は子供っぽくはしゃいで可愛らしく見える。兄嫁は悦子が連れてきた恋人をニヤけ顔で見て、悦子をからかう――、つもりだったのだろうが、平松を一目見てどういうリアクションをしたらいいか困っているようだった。
「……んと、彼氏」
困られても困る。そう紹介するしかない。何かの間違いかもしれないとでも思っていたのか、悦子が宣言してやっと、兄嫁は頷いて、
「あ、えっと、悦ちゃんの兄ちゃんの嫁の早智です。そんで」
早智は車の中の運転席に座っている兄を指さして、「あれが悦ちゃんの兄ちゃん」
「久徳っての」
悦子が解説すると、一歩前にでは平松は、こんにちはの『こ』で喉が霞れて咳払いをしたあと、
「こんにちは。ひ、平松翔太といいます」
と言った。
「こんにちはー。……悦ちゃん、やさしそーな人だねぇ」
そう逃げたか。悦子は苦笑いを浮かべながら、乗って、と軽バンの後部座席を指さした。失礼します、と何故か車に対して一礼をして平松がのっそりと乗り込んでいく。
「もうちょっと詰めてよ」
いくらスタイルには自信があっても、軽バンの幅で真ん中に座られてはお尻を入れるスペースがない。真ん中に座っていたのは、ひ、平松翔太といいます、と運転席から後ろを見ている兄に録音再生のような挨拶をすることに集中しすぎていたためだ。平松を奥に寄らせて、悦子も乗り込むとやっとドアを閉めることができた。
「おかえり。元気か?」
平松に「こんにちは」とだけ言った兄もリアクションに困っているのだろうか、挨拶も早々に乗り込んできた悦子へ笑いかけた。
「うん元気。……、兄ちゃん、……またハゲた?」
「うそ? ほんなこんないだら」
兄はかなり生え際の後退した坊主頭を手で撫でながら苦笑いした。
「やっぱ悦ちゃんもそう思うけ? じわじわ禿げてくからねぇ、一緒に暮らしてるとよーわからんのだわ」