不良少年-1
「くっ……!」
ナオキは顔をしかめた。
雑居ビルに挟まれた狭い路地に前から3人。振り向けばそこにも2人。
年齢こそナオキと同じだが、明らかに雰囲気の違う少年達が、じりじりと間を詰めてきていた。
「へへ、とうとう追い詰めたぜ」
ニヤつきながらそう言ったのはケンジという少年だった。知った顔ではあるが過去に話したことはなかった。
それどころか最近は学校でもあまり見かけない。かわりに夜の繁華街で仲間とともに、あまり人に言えないことをしている……そんな噂があった。
つまりドロップアウト寸前のフダツキである。
そんなケンジに声をかけられたのもまた夜の繁華街だった。
ナオキが通う学校は全寮制の男子校である。
通っていた、と言うべきか。
容姿が美しく華奢な体つきのナオキは、それまでもたびたび女子に間違われていた。
本人もそれを気にして、なるべく男性的に振る舞うことを心がけてはいたのだが、にも係わらず色目をつかってくる同性は後をたたなかった。
そして、とうとうある晩、アキオという体格のよいルームメイトによって、無惨にもレイプされた挙げ句に、
「お前は今日から、俺の女だ」
そう宣告されてしまったのだった。
それは彼にとってアイデンティティの否定でしかなかった。
その晩、ナオキは傷ついた身体を横たえて、一睡もできないまま朝を迎えた。
休日で学校はなかったが、アキオは無言で部屋を後にしたまま、夜半まで帰ってはこなかった。
(何かの間違いであって欲しい)
それとも、一時的な気の迷いということでもいい。
あるいは誠心誠意、平謝りに謝るなら、今回だけ下半身の痛みを忘れてやってもいい。
部屋の片隅にうずくまったまま、ナオキはそんなことさえ思っていた。
否定された「自分」を認めたくなかったのかもしれない。
だか……。
微かな期待もむなしく、部屋に帰ってきたアキオは、押し黙ったまま再びナオキを犯したのだった。
次の晩がくる前に、ナオキは部屋を出るしかなかった。