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そして16年目の恋模様(クラス1-AB)
【女性向け 官能小説】

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結婚式-1

【結婚式】

慌ただしい時間は瞬く間に過ぎていった。

結婚式の数日前から体調が良かった慎吾の外泊許可は難なく下りていた。投薬治療がキツいのか、げっそりと痩せていたが、表情はとても穏やかだった。

久しぶりに自分の家で過ごした慎吾は何を思っただろうか。もちろん、それに併せて千尋は実家に帰していた。

父親に対する嫁ぐ嫁の挨拶はどうだったか知る由もない。ただこの1月ですっかり涙脆くなった千尋が、号泣していたであろうことは想像に難くなかった。

花嫁の準備は時間が掛かった。午後2時からの式なのに、午前10時までにホテルに入った。

親族の控室で待機する時間は緊張した。あれから幾多の訪問で千尋と祖父は打ち解けていたが、慎吾とは葬儀の時以来、初めて顔を会わすからだ。

千尋の祖父母の武弘と知津子はギリギリまで顔を見せず、式の直前に顔を出した。多分、気を使って何処かで時間を潰していたのだろう。

武弘は、千尋の横に座る慎吾の姿を認めると、廻りを一切見ないで真っ直ぐに向かってきた。

慎吾は直ぐ様立ち上がり、近付く岳父を直立不動のまま真っ直ぐに見据えて迎えた。目の前に武弘が来ると、慎吾は深々と頭を下げた。

そんな慎吾に武弘は絞り出すように声を掛けた。

「知子の子を…、素晴らしい孫を残してくれて感謝する」

そう言って差し出された手を、慎吾は両手で握り締めて更に深く項垂れた。

「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます」

慎吾の肩は震えていた。

その横で知津子は泣き崩れ、千尋も化粧の心配をしなければいけないほど泣いていていた。そして2人の16年以上に渡る確執を知る者も皆、目頭を抑えていた。

チャペルの挙式は滞りなく終了した。千尋の色白にマッチしていたウエディングドレス姿に見とれてる内に、なんだか呆気ないほどアッサリと終わった印象だ。

それでも指輪の交換、誓いのキス、心の籠った讃美歌は心が痺れた。

制服姿の千尋の3人の友人、そして担任教師の白石先生も心から祝ってくれた。因みにブーケトスは白石先生が受け取っていた。

後の披露宴はどんな感じだろうか。

控え室に千尋を残し、オレは披露宴会場を見に行った。オレの両親、慎吾、千尋の祖父母が入口の前に立ち、来場者を出迎え頭を下げていた。本来ならばオレと千尋もここに居なければならないが、今日の披露宴はそんなことに拘らなかった。

オレも来場者に頭を下げながら入口から中を覗き込むと、白石先生がオレを認めてVサインを送ってきた。ドレスアップしてにっこり微笑む姿に、改めて少しどぎまぎした。千尋がこの場に居たら腕を思いっきり抓られたことだろう。

どうやら、準備は滞りなく済んだようだ。

控え室に帰って緊張で震える千尋の手を握り締めて時間を待った。

時間になった。控え室に残されたオレ達2人を係りの人が迎えに来た。

実はこの披露宴は通常の進行と違っていた。通常行う会場前での新郎新婦の出迎えは無いし、更に新郎新婦入場はいきなりキャンドルサービスでの入場だ。

形式に拘らないのは父親の教えなので気にしない。

係りの人に先導され、披露宴会場の扉の前に立った。キャンドルライトの火を灯すトーチを渡された。

「ベールにお気を付けて下さい」

一応不燃材だそうだが、係りの人は念を押した。

知子の好きだった今井美樹の「瞳が微笑むから」が会場から流れてきた。自分が生まれる前のヒット曲だったが、千尋自身が入場の音楽に敢えて選んだ曲だった。

歌詞の出だしを思い出し、少しジンときた。

扉が開き、スポットライトがオレ達を照らした。その眩しさに目が眩んだ。キャンドルライトを灯すテーブルを廻るため、係りの人の背中を見ながら付いていった。

緊張気味に震える千尋の手をしっかりとフォローし、煩いオレの親族の席を適当にあしらいながら廻った。千尋は終始オレの親族の声に圧倒されながら応えていた。

千尋の親族の席には慎吾と千尋の祖父母の武弘と知津子、それと千尋の知らなかった大叔父、大叔母が来てくれていた。

「知ちゃんに似て美人ね。知ちゃんの分も幸せになりなさい」

知子を知る大叔母が声を掛けてきた。

千尋が「ありがとうございます」と言う横から武弘が唐突な声を出した。

「知子の分も幸せになれだって?それは間違ってるぞ、知子は幸せだった。その証拠に知子はいつも笑ってたそうだ」

そう言った武弘は、1つだけ空いた席に目を移した。そこにはその言葉を裏付けるように、満面の笑みを浮かべた知子の写真が立てられていた。

オレと千尋を含め、そのテーブルに居たものは皆、武弘の視線に誘われるように知子の席に目を移した。しかし、その視線はテーブルの上に置かれた写真ではなく、それよりやや上に注がれていた。まるで、オレが今妄想で見ている知子の姿が、その席に座って満面の笑みを浮かべた知子の姿が、皆にも見えているようだった。

知子の喜ぶ表情に、また、目頭が熱くなった。



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