友人として、そして岳父としての願い-5
「お前も人のことが言えるかよ」
オレは慎吾を茶化すように言った。
「どういうことだ」
案の定、慎吾は食い付いてきた。
「開き直りついでに聞いていいか?」
「何だよ?」
「知子って元々パイパンだったのか?」
「何だって!お前、一体何を言ってるのかわかってるのか!」
慎吾は更に目を剥いた。
「まあ、怒るな。知子って、アソコの毛が無かったそうだな」
慎吾の動揺を促すように、更に畳み掛けた。
「千尋に聞いたのか?」
「ああ、物心が付いた時から知子に無かったから、女の場合、大人でもそれが当たり前だと思ってたそうだ。だから中1の冬に自分に毛が生えた時にはビックリしたんだと」
オレの言葉に慎吾はばつの悪そうな顔をした。
「それが普通だと言ったら安心してたけど、千尋は誰にも相談できずに悩んでいたんだぞ。お前が知子の毛を剃ってたんだろ?」
「ああ、初めはな。しかし、千尋が生まれてから永久脱毛させた。アイツの綺麗なアソコはその方が似合うからな。それに元々薄かった…」
開き直ったのか、慎吾は素直に答えた。
「親子だな。千尋も知子に似て、それが似合いそうだ。オレもやってみるか」
オレはニヤニヤしながら岳父に言った。
「何だとっ!お前、オレの娘に変なことをしたら許さないぞ」
慎吾は声を荒げて、オレの胸ぐらを掴んだ。
「どうしたの?」
病室の前まで帰って来ていた千尋が、慎吾の声に驚き、慌てて飛び込んできた。
「やだ、お父さん、何してるのよ!浩太にいを離して」
「離してだってよ」
オレが悪びれる風もなく慎吾に言うと、しばらくオレを睨んでいた慎吾のキツい目がすうっと治まった。
そして、胸ぐらの手をオレの肩に乗せ直し、オレの目を真剣な目で見据えた。
「何でもいい。とにかく千尋を幸せにしてくれ。千尋がいつも幸せそうに笑う相手は、お前しかいない」
古くからの友人の真剣な頼みだ。
「ああ、任せとけ」
オレは友人の頼みを、生まれてこの方、また、これから先も2度と無いだろうと思えるくらいに、自信たっぷりに応じた。
感情豊かな千尋はそれだけで感激してオレに飛び付き、病室にも関わらず、子供のようにわんわんと号泣した。
そんな千尋を優しく見ながら、オレの肩に手を乗せた慎吾は、心から安心しきったような表情を浮かべた。
オレはというと、友人である岳父の前でしばらく照れているしかなかった。
その時、驚いたことに、突然ここでも妄想の声が聞こえ始めた。
(ほら、慎ちゃん、あたしの言った通りでしょ。浩太さんなら大丈夫だって)
また、出たか…
セックスのし過ぎで疲れてるのかな?
オレは自分の妄想癖に呆れ返り、疲れを取るように目を閉じて瞼の裏を強く揉んだ。
「ああ、知子の言った通りだな」
その慎吾のつぶやきに驚き、目を開けると、慎吾が病室の一点を振り返って、満足気に頷いていたのが目に入った。
本当に偶然て有るもんだ。親子揃ってオレと同じ妄想をしてやがる。
しかし、今慎吾が凝視してる場所は、昨日、奴が考えごとをしながら見ていた場所と同じで、今も千尋が涙を流しながらそこを見て頷いているのは気にるな。かなり…
次の日、オレだけが慎吾に呼び出された。
千尋の前では言えなかった婚姻届けの本当の理由を聞かされた。
オレは愕然としたまま病室を出たが、気を取り直して、ハードルを越える気力を奮い起たせた。