友人として、そして岳父としての願い-3
「で、どうなった」
「オレは自分が苦しんでいる時に、ややこしい問題を投げ掛けたお前達を恨むだろうと思った。その結果、いい悪いに拘わらず、お前達の仲を絶対に認めないだろうともな」
「お前が千尋を恨むもんか…」
オレを恨むことは有っても、それはあり得ない。
「いいや、わからん。他のことに気を回す余裕が無くなる治療だぞ。そんな時にお前との仲を認めてくれと言い続けられてもみろ。幾ら可愛い娘でも赦せなくなるぞ」
「そ、そんなこと…言わないもん…」
そうは言ったが、千尋の声は自信が無さげだ。
「それに今お前達の交際を認めとしても、未成年の千尋をそのままお前の家に住ますと、それがまた気になって仕方がなくなるしな。だからこれは、オレが治療に専念するために導き出した答えと言うことだ」
「治療に専念するために、先に結婚させとけということか?」
オレは突拍子もない考えをする友人を、呆れ顔で見つめた。
「そうだ。お前達の交際は認める。しかし、その条件として、1月以内に結婚式をあげることだ。」
「卒業を待たずにか」
「ああ。色々ハードルが有るだろうが、それが条件だ」
一番のハードルは親権者の同意だ。知子が他界しているので、これは慎吾だけで足りる。他に思い付くのは、千尋の学校だ。高校だけは卒業させたいので、学校の同意も必要になるのだろうか。校則に結婚禁止なんてあるのかな。
更に高いハードルがあった。去年の寂しい三回忌が脳裏を過った。オレは親族の少ない千尋のために、このハードルを乗り越えてやりたい。しかし、このハードルの高さを思い浮かべて少し気が重くなった。さっきまでのオレは、千尋が卒業するまでの2年を掛けて、そのハードルを越えようと思っていたのだ。
その気弱さがオレの口から出てきた。
「去年、三回忌が終わったばかりだぞ」
「三回忌が済んだから大丈夫だとも言える」
空かさず慎吾が答えた。
オレは千尋を見た。オレの手をしっかりと握った千尋が頷いた。
「わかった。1月後に式をあげる。準備するからお前は治療に専念しとけよ」
「ああ、頼んだぞ」
2人のやり取りを横で聞いていた千尋が、オレに抱きついてきた。
「やったー!慎吾にい、あたし達結婚するんだよ!」
慎吾の目の前だと言うのに、キスまでしようとしたので慌てて、そっぽを向いた。
「あっ、それともう1つ、それを渡すには条件があるぞ」
千尋のはしゃぎ様を見た慎吾が顔を顰め、取って付けたように言い足した。
「何だよ?遠慮せずに言えよ」
一番のハードル。慎吾の許しを得て安心しきったオレは、余裕気味に聞き返した。
「一発殴らせろ」
「はあ?」
オレはまたもや突拍子も無いことを言い出した慎吾に呆れた。
「でないとオレの気持ちが収まらない。これを我慢してたら、治療に専念出来ない」
「何言ってるんだ。そんなことを言うんなら、オレの方がお前に1発分貸しが有るんだぞ。あの時、知子が止めに入ったから仕方無しに我慢してやったのを忘れたのか」
高校2年の時の殴りあいの喧嘩のことだ。