千尋の誘惑-3
「だめだ!こんなことをしてはいけない!」
自制心を取り戻したオレは、頼りなげにオレを見つめる目に向かって怒鳴った。しかし、浴室に響くオレの声に、千尋の目の色が明らかに変化した。
「どうして?」
一瞬にして勝気になった目で、千尋がオレを問いつめた。
『今の今まであたしの頭を抑えて楽しんでいながら、今更何を言ってるのよ』
その目はそうオレを詰っていた。オレはその目の強さにたじろぎそうになったが、何とか思い止まり直ぐにきり返した。
「どうしてもこうしてもない。千尋はオレが慎吾から預かった大切な娘だからだ」
自分の恥ずべき行為を誤魔化すために声が大きくなった。
「お父さんは関係ない。あたしはもう大人よ」
「関係無いことはない。千尋はまだ未成年だぞ。それにこれは慎吾の信頼を裏切ることだ」
「未成年でも体は大人よ!フェラチオも知ってるし、セックスだってできるわ」
フェラチオ…
千尋のことは赤ん坊の頃から知っている。幸せそうに笑う知子の腕に抱かれて「きゃっきゃっ」と笑っていた。毎年の誕生日には、成長に併せてプレゼントを贈っていた。1歳の時にはミルクを飲む人形。2歳の時にはママゴトのセットだ。3歳、4歳とアンパンマンがお気に入りで、年長さんから小学生の低学年までは毎年替わるプリキュアだった。小学校の高学年の時、シルバニアンファミリーの家を最後に、おもちゃ類の催促は無くなったが、その分、クリスマスプレゼントのリクエストが、サンタでは無くこちらにも届くようになった。
16歳と言えば、中には経験している者もいるだろう。それでもまだまだ子供だと思っていた千尋のその言葉を耳にし、これまで築いた慎吾一家との関係性が一気に崩れていくように感じられた。
「見て浩太にい、あたしはもう大人よ」
真っ直ぐな目がオレを見つめてきた。
「だ、だめだ…」
オレはそれに耐えきれずに、視線を反らしてしまった。しかしそれがいけなかった。千尋はその隙を突いて、オレに抱きついてきた。素肌と素肌が重なりあい、千尋のバストがオレの胸を刺激し、オレの勃起した肉棒が千尋の腹に密着した。
「浩太にいのお嫁さんになりたい」
オレの胸元に顔を埋めて、千尋がとんでも無いことを口走った。
昔からそうだった。オレは千尋の可愛いわがままを容認する傾向にあった。千尋を叱る知子や慎吾を目にすると、直ぐに千尋を庇い、宥める役を買って出た。後で独身男の無責任な行為だと慎吾夫婦に詰られた。
そんなことを繰り返し、自分のわがままを容認する【浩太おじさん】が千尋の中で定着していた。そのおじさんが、自分の要求を拒否することは、千尋にとっては考えられないことだったのだろう。
『こうたおじさんのおよめさんになる』
千尋が初めてそれを口にしたのは、ママゴト遊びの相手をさせられていたときだった。
『こらこら、お婿さんになる相手を、おじさんて呼んだらダメだろ』
『じゃあ、なんていえばいいの?』
『そうだな?取り敢えずおじさんは止めてお兄さんと呼びなさい』
【浩太お兄さん】が呼び難いのか、初めは【こうたにいちゃん】だった。
『浩太にいちゃんのお嫁さんになる』
小学生時代を最後に、千尋からその言葉は聞かなくなった。丁度呼び名が【浩太にい】に変った頃だった。
千尋も成長したんだな。一抹の寂しさを覚えたが、それ以上でも以下でも無かったし、もちろん千尋が恋愛の対象にはなり得なかった。
それが、数年の時を経て、大人の身体に変貌した千尋が卑猥な言葉を口にした。しかも全裸でだ。