勇気ある撤退-7
空は降ってきそうなほどの星。
一方で、ようやくエンジンが温まったのか、みんなの楽しげな声が背中越しに聞こえてくる。
これが、本来のキャンプの姿なんだよなあ。
みんなでワイワイやって、たくさん飲んで食べて。
そして、ちょっと隙をついて沙織と二人きりになって、こんな綺麗な夜空を眺めて。
でもそれは、叶わなかった願い。というか、自分から手放した結果。
数え切れない程の星が、キラキラ輝いているけれど、流れ星は見つけられない。
自然と諦めに似た力無い笑みが勝手に浮かんでくるのだった。
……沙織は州作さんといい感じだし、いい加減現実見ろってことなんだろうな。
そんなことを考えていると、みんなの騒ぐ声に紛れて、背後から砂利を踏みつける音が聞こえてきた。
ゆっくり後ろを振り返れば、
「歩仁内……」
「飲むか?」
桃のサワーらしき缶を俺の前に突き出す歩仁内の姿だった。
だけど、俺は静かに首を横に振る。
歩仁内の気遣いは涙が出るほど嬉しいけど、やっぱり州作さんが用意したものは口にしたくない。
仕方なしに歩仁内はプシュッとそれを開け、グビッと飲み込んだ。
思った以上に甘かったのか、舌を出して眉間にシワを寄せるその様子が、やけに可笑しかった。
「……ごめんな、大山」
「何謝ってんだよ」
「いや、おれが兄貴をこのキャンプに連れてこなけりゃ……」
言い終わらない内に、俺は奴の背中をバチンと叩いて、それを遮る。
「バーカ、お前が悪いなんて思ってねえよ」
小さく笑う俺に、歩仁内はきまりが悪くなったのか、もう一度サワーをグビッと飲み込んだ。
確かに、歩仁内が州作さんを連れてこなければ……という気持ちがあったのも事実。
州作さんが沙織にちょっかい出したのが引き金になって、別れることになってしまったと言えるけど。
でも、こんな結果を招いたのは全て俺だったんだ。
可愛くて、男に人気のある沙織だけど、彼女は何も変わってなくて、いつも俺の横にいてくれた。
沙織を狙う男がいる、という現実から逃げていた俺だけが、変わってしまったんだ。