勇気ある撤退-6
◇ ◇ ◇
酒の力はやっぱりすごいと思う。
重い空気を打破してくれた沙織の一気飲みを皮切りに、みんなも恐る恐るアルコールに手を伸ばし始め、気付けばあっという間にいつもの和やかな空気に戻っていた。
ずっとだんまりを決め込んでいた修も、石澤さんが話しかけていくうちに、いくらか笑顔もチラホラ見え始めて、ようやく楽しいバーベキューが再開されていた。
……俺を除いて。
結局、沙織の突然の飲みっぷりに呆気に取られた俺は、部屋に引っ込むタイミングを逃してしまった。
かと言って、緊張感が解けつつあるバーベキューに加わることも出来ずに、相変わらず隅で小さくなるだけ。
卑屈になっているのはよくないってわかってるけど、州作さんが用意した酒を飲みたくないのは、男としてのプライドだ。
一方、アルコールの力で沙織は、本当にさっきまで泣きじゃくっていたのが嘘のように、ハイテンションになって州作さんと楽しげに話をしていた。
今まで俺に向けてくれた笑顔を州作さんに向けているの光景は、まるで恋人同士のようで、その光景に胸が張り裂けそうになる。
沙織の笑顔は、憑き物が取れたみたいに晴れ晴れしていて。
それが、俺から心が離れたからだと思うと、目を逸らすしかできなかった。
当然……、だろうな。
沙織の隣でニコニコ笑っていた彼氏が、実はいつも不安やコンプレックスを抱え、しかもヤりたいヤりたいとそればかり考えていたと知って、キモいとすら思っているのかもしれない。
だから、俺に愛想を尽かせ、支えてくれた州作さんに心が傾いた。
きっとそれが全てなんだ。
尾羽打ち枯らされた俺は、生きていく気力すら奪われたような気がして、そっと席を離れた。
向かった先は、ログハウスの隅。
灯りが届かない場所は、今の俺にぴったりだ。
ふと上を見れば、満天の星空。
ああ、お星さまになりたい……。