勇気ある撤退-2
とりあえず、歩仁内に“先に部屋で休んでる”と言っておけば、察してくれるだろう。
バーベキューコンロの前で、力なく野菜をひっくり返している奴の元に、そう告げようと立ち上がった時、
「はーい、ちょっといいかな?」
とさっきまで席を外していた州作さんが、掃き出し窓からウッドデッキに降りてきた。
その明るい顔と声は、このお通夜状態すらどこ吹く風のように、鼻唄なんて歌いながらのご機嫌な様子。
そんな彼は、両手に持っていたレジ袋をテーブルに置いた。
俯き加減のみんなの顔が、ゆっくり彼に集まっていく。
そして、みんなの視線が自分に集まった所で、
「せっかくのキャンプだし、ほんの少しだけハメ外してもいいんじゃないかと思いまして、こういうの用意させてもらいました〜」
と、イタズラっぽい笑みを浮かべながら、州作さんはレジ袋の中から缶をゴト、ゴト、とテーブルに並べ始めた。
ログハウスの外灯と、テーブルの真上を照らすタープに取り付けたランタンだけの、なんとも頼りない明かりに照らされたのは、たくさんの銀色の缶。
他にもフルーツのイラストが描かれた、いかにも女性向けの飲み物っぽい缶もたくさんある。
もしかしてこれは。
州作さんの“ハメを外す”って言葉と、銀色の缶に映るロゴは、うちの親父が晩酌でよく飲んでるものと同じものだったから、それらが何であるのかは簡単に予想がついた。
「なあ、これって……酒?」
歩仁内がそう訊ねても、州作さんは含み笑いをするだけで、何も答えず、
「さっきの買い出しの時に、ちょっとな」
なんて、それだけ言って、なぜかチラリと俺を横目で見た。
俺を挑発したつもりなのか。
沙織を誘って、二人で飲み物を買いに行った、その事実を突きつけてきたような、そんな視線だった。