投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

エスが続くの最初へ エスが続く 66 エスが続く 68 エスが続くの最後へ

3. Softly, as in a Morning Sunrise-17

 夫への謝意が厚ければ厚いほど、タイミング悪く号泣電話をしてきた同じ歳の女にムカついていたが、ドアが開いて顔を出した悦子を見て、ふき出しそうになって怒気を鎮めることができた。マスカラが流れ落ちて黒い涙で顔を濡らしている。こめかみにボサボサの髪が張り付き、鼻をどれだけかんだのか、小鼻が真っ赤になってまだテカっている。スカートからブラウスの裾が片方はみ出している。あれ? この人、社内外に轟く美人社員じゃなかったっけ?
「美穂ぉ……」
「はい、とりあえず寒いので入れてください」
 春とはいえパジャマに薄手のカーディガン、しかも裸足にサンダルだ。悦子の肩を叩きながら中に入る。こんな女とはいえ友達だから、ひどい姿を見られたくないだろうと夫は近くのファミリーレストランで待たせてある。肩を組むようにして蹌踉めく悦子を部屋の中に連れて入りベッドに座らせた。美穂の顔を見たせいか、また泣き始める。背中をさすりつつ、片手で夫に『とりあえず無事』とだけメッセージを入れた。
 悦子を宥めながら部屋を見渡した。色んなモノが散乱しているのかなと思ったが、悦子は暴れなかったらしい。だがフローリングの上に一つだけ紙袋が無造作に転がっていた。倒れた口からはみ出している。網タイツ。ピンヒールのサンダル。エナメル地でカシメが打ち込まれて細いチェーンが巻き付いているショートパンツ。見えてないが同じ感じのトップスもあるのでしょう。帽子とかもあったりするのかな?
 悦子が最も恐れていた事態になったのかもしれなかった。
「悦子」
 胸を喘がせていた涕泣が少し治まってくると、美穂は背中、肩、頭をさすりながら悦子に優しく話しかけた。悦子のほうが背が高いから並んで座れば頭が上に来るはずなのに、背中を丸めて項垂れた悦子が小さく見えた。
 悦子が帰ると平松が先に部屋に居た。今日も平松は彩奈と仲が良さそうに見えた。美穂に諭されて彩奈は悪くない、この豚に邪心がないかを確かめるのだと観察を続けていたが、もともとそんな小細工はできない質だから全く平松の本意を読み取ることができずにいた。
「おかえり」
「ただいま」
 アミューズメント企業の案件は、本当に大型になりそうだった。親会社も含めて、提案、取り込みに向けてタスクフォースが組まれた。もちろん悦子もそのメンバーだったが、タスクフォースのリーダーには任命されなかった。悦子が発掘した案件ではあったが、建築施工全体の案件となると自分のスキルでは足らないことは承知しているから、リーダーではなく照明の提案担当として参画することは不服ではない。だが親会社からリーダーとしてやってきた悦子より少し年上のやたら長い横文字の肩書を持った男は、完全に悦子を見下していた。顧客側の内情については悦子の方が詳しいのに折衝のイニシアチブを取りたがって、かつ悦子の専門分野である照明関連の提案に関しても口を挟んできて、しかもそれが的を得ていない。単なる気分で悦子の案を否定してくる。どう見ても子会社の女だからという理由で自分を見下していた。状況をエスカレーションして体制を変えてもらおうかと思ったが、グズグズしていると商機を取り逃がす。自分を信頼して話を持ちかけてくれた顧客を失望させたくない。ここは何とか堪えて、リーダーを上手く持ち上げつつ調停を図り、とにかく受注までは漕ぎつけようと考えた。
 しかもタスクフォースに参画することで、その他の顧客に裂ける労力が少なくなったため、悦子が持っていたチャネルの一部を一旦平松を含む部下たちに割り振って乗り切ることになった。悦子の大変さは平松も理解しているようだったから、悦子が築いてきた良好な関係に傷をつけないように、張り切って当たってくれている。恋人としてではなく、純粋に仕事仲間としてそれは嬉しかった。しかしタスクフォースに注力するために、部長の指示で彩奈の育成についてはチームで取り組むこととなり、平松の外回りに彩奈が同行していく。他の部下にも同行することはあるが、平松が回る案件の規模・難度が育成にちょうど良いレベルだったから平松と同行する頻度が最も多かった。
 よって悦子はビジネスとプライベート両面でストレスを溜めていた。リーダーが鬱陶しい点については、顧客最優先、全体最適を考えてセルフコントロール。プライベートは……、平松と二人の時間に彼の愛情を確認することで信じていくこと。彩奈は悪くない、悪くない。
 悦子のために平松は自分が先に帰る時は、料理はできないが弁当屋に寄って夕食を買ってくれていた。電子レンジで温めなおして、二人で食べる。悦子が遅くなっても、先に食べてていいよとメールしても、食べずに待っていてくれる。悦子が二人で入る風呂が好きだということに漸く気づいたのか、湯を張って用意してくれている。これらを見ると彩奈に手を出そうとしている疑惑が薄らいだ。そうしていつも以上に愛情たっぷりに抱いてくれればいい。
「んっ……」
 フローリングに座ったまま平松に後ろから抱かれ、顔だけ振り向かせてキスをされながらブラウスの上からバストを揉まれる。伸ばした脚の少し浮かした膝が心地よさに緩んで離れてしまう。


エスが続くの最初へ エスが続く 66 エスが続く 68 エスが続くの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前