2. Sentimental Journey -22
「ほら、見てて、入ってくるよ」
コンドームの薄いピンクに覆われた男茎の尖端が、頭を擡げた眼下に、大胆に開かれた脚の中心でしなったヘアの狭間の美肉へ押し当てられていた。
「んっ、ちょ、ちょうだいっ……」
垂れてしまった内ももや、シーツ横たわった背中で、尿によって肌がひりつくのも、下腹への圧迫を前に気にならなかった。
「誰のおちんちんでもいい?」
「……翔ちゃんのじゃなきゃやだ。コレが欲しいのっ」
きっとこれが入ってきた瞬間にまたいく。悦子はそう予感しながら平松に懇請していた。
激しく愛しあった後でも、テレビドラマならばシーンが変わって、翌週職場に出勤した風景になる。だが現実にはそうはいかなかった。まず場所は大阪だ。横浜に帰らなければいけない。自分の排泄物の上で身を踊らせて淫り狂った後始末としてシャワーも浴びなければならない。そういった現実事を果たさなければならず、そして当たり前だがその間に頭の中は現実に引き戻されていく。いつものように最中の具な記憶は無いのだが、体に残る余韻とベッドの上の惨状から何となく推察される。推察されるが快楽のままに何を言ったかまではとても思い出せない。
要は、顔から火が出るほど恥ずかしい。
セックスの後は男のほうが醒めるのが早いと聞いたことがある。だが朝起きて冴えていたのはむしろ悦子の方で、乱れに乱れた化粧と髪を整えるためにシャワーを浴びた後、バスタオルを撒いた姿でドレッサーの前で身を整えていると、漸く起きだした平松が全裸のまま後ろからまとわりついてきた。鏡越しにチラチラと寝起きの男茎の元気な姿が見える。
「……ちょっ、邪魔しないで」
「昨日……、すごかったよ。大好き」
「ばっ……」胸元に結んでいるバスタオルの袷に手をかけられそうになって、ぱしっと手のひらで軽く叩いた。「……朝からしないよ?」
「なんで?」
「だって、チェックアウトの時間もうすぐ」
「……翔ちゃんって呼んでくれないんだ」
顔をなぞるパフがピタッと止まった。言った。それは憶えている。自分で言い出したのは分かっているが、思い出すと真っ赤になった。
「そ、そんなしょっちゅうは呼ばない」
「エッチのときだけ?」
「……そだね。そういうこと」
「わかった」
平松は後ろから悦子の肩口を抱きしめて、首筋にキスをし始めた。
「やっ、ちょっ! キスマークつけたらマジで殺すよ!?」
「殺されるのはやだな。……つけたかったのに」
「わかったんならやめて」
「うん」
そして首筋に唇を這わせてくる。震えてパフが動かせるわけがない。
「ちょっとっ!」
初めてしたときから変わらないがベタベタがすごい。まとわりつかれて悪い気はしないが、このまま許しているととんだ甘えん坊になりかねない。「怒るよっ!」
「……もう一回言ってほしいな」
「なにが」
平松が耳にキスをして、耳朶の凹凸へ舌をなぞらせてくると、悦子の肩が何度も跳ねた。
「俺のこと好き?」
ほらほら、もう甘えん坊の兆しが見え隠れしてる。これはいけないと思った悦子は、耳から伝わってくる疼きに耐えながら、鏡の中の素っ気ない表情を確認しながら、
「それもそんなしょっちゅう言いません。ほら、あんたも早く……」
平松の方を睨んで言っている途中で、さっき叩いて退けた手がバスタオルの結びに伸びてきて強引に取り払われた。チェアに座ったままで裸にされた。
「おいっ!」
「好き?」
身を捩る悦子の体を片手で強く抱きしめて動かせないようにして、脇腹からバストへ撫で上げられると、尖端の乳首を指の腹でまぶすように摘まれる。
「んっ……、やめて」
「硬いよ、乳首」
「寒いからだよ」
「ふうん」
親指と人差し指の腹で強く摘まれて引っ張られ拗じられる。パフを持ったままの手で平松を抑えようとするが力が入らず、腕の中にいると上体がビクンッと跳ねているのを知られてしまう。
「好き?」
「こ、こんなことされながら言いたくないっ」
「昨日言ってもらってすごく嬉しかったんだ。寝て起きても変わってない?」
「んっ……」
そう言われると、言った方も悪い気がしない。「変わってない。変わってないって……」
乳首から騒めいてくるもどかしさのせいで、ピッタリと揃えた太ももの間で昨日の名残がまだ残っている秘所が新たな疼きにヌメりそうになっていた。
「ほんと?」
「しつこいっ」
平松が更に乳首を引っ張って強く捻りながら、歓喜を滲ませた舌で悦子の口内を舐めまわしてくる。朝から深いなあと思いながらも、自分といるときはいつでもこうなんだという感じが伝わってきて毅然と退けることができない。腰に硬くなった亀頭が軽く当たる。透明の汁のヌメッとした感触に、せっかくシャワーを浴びたのに汚される不快さより、自分でこんなにも漲っている嬉しさのほうが強い。