2. Sentimental Journey -17
だがその瞬間に引き裂かれた下腹部の中心から、手足の指先と脳天まで一気に淫靡なシグナルが冴え渡り、途端に全身に渇求が沸き立ち始めた。恋人ならば大事に扱うべきだし、特に今までそうされてきた。しかし平松は愛を囁いておきながら悦子の下肢を淫欲の具のように淫らな目で見て、ショーツを剥き出しにした部分へ改めて顔を近づけてきた。
「うわっ、……ちょっ」
立ったままスカートの中に顔を突っ込まれて、ストッキング越しに吸い付かれただけでも立っていられなかった。薄布一枚とはいえ、それが取り払われて唇が押し付けられれば、更に悦子の膝を脱力させてくるに違いなかった。
「舐めてほしくないの? 俺のこと好きじゃない?」
「な、なに調子に乗ってんのよっ!」
胸の内は期待と淫欲に張り裂けそうだったが、残っていた羞恥と、普段は平松よりも上に立つべき者だということを思い出して、腰を引きながら平松の額を制した。
「手、どけて?」
「やだ……」
「……恥ずかしいこと好きなんでしょ?」
「す、好きだなんて言ってないっ」
今ままで好きかどうかも知らなかった。恋愛の相手として好きだから恥ずかしいことも許せるのだと言った筈だ。「……ねぇ、ち、ちがうよ? 私……、エ、エッチが気持ちいいから、あんたのことを好きなったわけじゃない」
そんなセックスフレンド並の感情で平松の好意に応えたわけではなかった。そう言うと平松は額に置かれていた手をとり、頬ずりして甲にキスをした。唇が触れただけでピクリと手を引きそうになる。そればかりか平松は口の中に悦子の指を咥え込み、指の付け根の間にも舌を這わせてくる。悦子は信じられなかったが、舌が指を舐めとってくるだけで、腰が打たれたようにひくついて、ズレ落ちたスカートの奥で確かにドクリと蜜がこぼれ落ちた。
「ん……」
平松は指へのキスだけで震えた甘い息を漏らしている悦子を見上げて、
「俺も悦子とエッチしたいから付き合いたいわけじゃない」
「でも、……う、……、っ……、さ、させてあげて、すぐに付き合いたいって言った」
「悦子がすごくキレイで、でも可愛いの知って好きになった。好きになったからたくさんしたい。……悦子が誰と付き合ってきたかは知らないけど、きっと俺、誰よりも悦子のことが欲しくてたまんない。体じゅう」
「ん……、わかった……」
キレイだ可愛いだ言われて嬉しくないわけがない。誰よりも強く欲しく思ってるだなんて初めて言われた。確かに平松の精力は尋常ではなかったし、彼が求めてくる度に悦子は深い性楽に浸ることができた。相性なんていう言葉で片付けようとしてもできない、ここまで自分を艶めかせる相手はこの世界にはいないのではないかとすら思えてくる。女に慣れていない平松が淫欲に任せてヤリたいことを、自分がされてみたい、自分だけがされたい。
「悦子にエッチだけで好きになったわけじゃないって言われて、すごく嬉しい」
「うん……。ほんとだよ」
「していい?」
「な、何を……?」
「ぜんぶ」
平松の腫れぼったい目の黒みの奥に淫欲の炎が燃えている。自分に対して燃えている。一ヶ月経って漸くこの瞳に自らを投げ打ちたいと彼に白状したのだ。
「んっ……、……いい。で、でもっ……」
悦子はどれだけ何をされるか曖昧にしか分かっていなかったが、「ふ、服……。明日も着るから」
きっと今日まで以上の快楽がもたらされる予感がして、悦子はそこへ身を投げ出す最後の心残りを捨てたかった。平松が立ち上がる。いつものように体をまさぐりながら脱がせてくれるのかと思ったら、一人でベッドの上に上がっていった。
「ジャケットとスカート、自分で脱いで、こっちおいで」
「ぬ、脱がせてくれないの?」
「そう。自分で脱いで、ここで脚開いて。たくさん舐めてあげる」
平松はベッドの上に膝を突いて座った。そのすぐ前には悦子が身を置く十分なスペースがあった。いい、と言ったが、その光景を見て悦子は顔から火が出そうだった。イヤラしい場所をよりイヤラしくしてもらうために、自分で服を脱ぎ、平松の前に身を開く。悦子は高鳴る鼓動にテラードジャケットのボタンを外す手が震えた。
「早く。やめちゃうよ?」
「あっ、ま、待ってよ……」
平松に煽られて、上手く動かなくてもどかしい手でボタンを外してジャケットとブラウスを脱いだ。タイトスカートに手をかけて引き下ろし脚から抜く。ストッキングは無残な姿になって悦子の下肢に貼り付いていた。平松はジャケットとスカートだけとしか言わなかった。黒の下着と引き裂かれたストッキングは悦子の体を妖美に煌めかせていた。スカートとジャケットをハンガーに掛けたいがその時間が惜しい。テーブルに投げ置くと、悦子は長い脚を上げてベッドに上がって平松の正面へ身をにじり寄らせていった。
「こっち向いて脚開いて」
「うん……」