2. Sentimental Journey -16
「……んっ、いきなり触るの?」
「さわりたい」
「すぐさわりたがる」
「……。……エロすぎかな、俺」
平松かストッキングの薄布にすべる脚を撫でる、そんな場所ですらゾクッとした掻痒がスカートの奥に向かって這い登ってきた。「悦子しか知らないから。……俺がしたいこと、……普通なら引くようなことかもしれない」
平松の声が少し不安げになった。
「そ、そんなのわかんないじゃんっ。人それぞれ、だよっ……」
悦子は身を捩らせながら、それは自分もそうだと思った。今まで男を踏みつけてばかりさせられて、本当にして欲しいことは頭の中でのボンヤリとした妄想でしかなかった。男らしく抱いて欲しい、経験がないから具体的にどうして欲しいのか明言することはできなかった。恋愛年齢をここまで過ごすと、胸の内に秘めている単なる憧れにも近くなっていた。しかし平松に抱かれ始めて、朧気だった願望が具現化されると、悦子はこれまで知らなかった喜悦を感じ、一度知ってしまうとまた欲しくてたまらなくなった。三十路ともなるとエロい女だなと嘯いてごまかせないほどに、こんなに貪婪な女を愛してくれるはずがないという深刻な悩みに発展しそうだった。
「俺にされるの好き?」
そう問うと、平松は足元にしゃがんだ。見上げる視線が悦子を妖しく身震いさせる。すこし捲れているスカートが心もとなく恥ずかしくて、手で引き下ろそうとしたら手首を握られてさせてはもらえなかった。「悦子のアソコにキスしたい」
「うっ……、そうやっていきなり舐められるの……、ず、ずっと、恥かしいって、言ってるじゃん」
これまで抱かれる時も一日過ごしてきた体を洗うことなくそのまま鼻口を押し当てられてきたが、羞恥が起こらず平気なわけではない。いや、むしろその羞恥が欲しくて平松に許しているのかもしれなかった。
「悦子が恥ずかしがるようにするのが好きなんだ」
「エロい」
近い平松の熱い吐息をストッキング越しに脚に感じると、その恥ずかしさに悦子は足踏みするようにヒールを床に鳴らした。
「悦子も好きじゃない? こういうの」
平松が悦子の膝の内側に手を添えて左右に広げてくる。前面に皺を作ってタイトスカートをゆっくり捲くられながら、その力に逆らわずに悦子は両足を肩幅以上に開いていった。
「……す、……。……好きかもしれない」
俯いた悦子は自分が吐く言葉の羞恥に唇を噛んだ。髪を後ろに纏めているから、平松の視線を顔にひしひしと感じる。頬も耳も熱い。スカートの奥も熱くなっている。
平松が真下から顔をいっぱいに広がったタイトスカートを更に捲るように伸び上がってきて、最奥で震えている秘丘の頂点に唇を密着させてくると、悦子は大きな声を漏らして平松の両肩に手をついた。立っていられないほど、ストッキングもショーツも越えてもたらされる唇の卑猥な温かさと滑りだった。唇ではまれながら、その中で尖らせた舌先がクリトリスを突き弾いてくる。見えていないのに的確にその場所を捉えられて、悦子は平松が唇を押し当てるそのすぐ側のクロッチ布へ夥しい蜜を垂らしていた。
「キレイだよ、悦子のパンスト姿……、すごくエッチで嬉しい」
熱っぽい声でスカートの中から言われ、更に唇を強く吸い付かれると、悦子は膝が笑って、平松の顔に向かってもう濡れ塗れたショーツの柔らかみを押し付けていた。
「たくさん悦子をイジめて可愛いところいっぱい見たい。それでも俺に好きだって言って後悔してない?」
「あっ、く、……うあっ、あ、……す、好きだから、こんな恥ずかしいこともさせてるのっ……」
悦子が息絶え絶えに言うと、平松の唇がクロッチから離れた。太ももに添えていた両手がスカートの中に忍び込んでくる。悦子はしゃがんだ平松の肩に掴まったまま、平松がストッキングを脱がしやすいように腰を少し前に出した。だがおもむろに平松の手が悦子の下腹の中心に及んだかと思うと、爪先で摘んで、その薄布に噛み付くと糸切り歯を立てながら部分を左右に乱暴に引っぱった。
「わ、やっ!! なにすんのよっ!!」
悦子が叫んだ時には遅く、薄黒の布地に大きな穴が開いて、黒いショーツと、それに好対照な麗しい肌が足の付け根まで顔を出してしまった。
「だって悦子の脚がエッチ過ぎるんだもん」
平松は引き裂かれたストッキングに包まれた脚を見上げてきた。単純に細く痩せぎすではなく、太ももやふくらはぎには意外とボリュームがあるのに、太く見せないのは身長に比しても全体が長いからだ。膝の位置の高さに加え、ヒールを履くとさらに脚線美が強調される。脚には自信がある。美脚は自負してるし、悦子への隷従を求めてきた今までの男が特にこの脚の虜となったのも自分で納得できる。被虐男は嫌いだが、それを置いたとしても悦子にとって最も誇っている場所だ。そんな大事な場所を無礼に、イヤラしい欲求の赴くままに引き裂かれたのだ。