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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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2. Sentimental Journey -12

 注文は店に任せることにした。しし唐と白身魚から出てくる。
「ソースは一回だけしかつけたらだめだからね」
「たしかに書いてるね」
 平松が覗き込んだソースの入った金属ケースの胴体に『二度づけ禁止!』と赤字で貼ってある。「このキャベツはどうしたらいい?」
「食べながらかじるだけ」
「……豪快だね」
 飛び込みで入った割には、以前大阪に来た時に入った有名店と遜色ない味だった。店内の壁に貼ってある品書きを見てみるとどれもこれも安い。大阪に住んだら一気に太りそうだと思いながら、次々と出てくる串揚げを食べた。同じペースで食べている平松が、一つ一つ物珍しそうに食べている姿が愛らしかった。
「一口だけちょうだい」
 揚げ物にウーロン茶だけだと少し寂しくて、平松の飲んでいたビールをもらった。その様子を見ていた店員が、てっきり会社の同僚か単なる友達かと思っていたが、どうやらこれは違うぞと思い直したようだ。その証拠に、
「えっと、……お客さん、ニンニクは大丈夫ですか?」
 と問うて来た。他の席で飲んでいる中年サラリーマンには訊かなかった。
「あ、はい、だいじょ……」
「やめときます」
 平松が言うのを途中で制して悦子が言った。笑顔で、わかりました、と言う店員へ悦子もニッコリと頷き返した。ゆっくり食べると腹が膨れてくる。勘定を聞いて安さに驚いていると、店員がレシートを平松に渡した。財布を出そうとする悦子を、いいよ、と止めて平松が尻ポケットからボロボロの財布を出して支払う。カッコつけちゃってまぁ、と思いながら、礼を言って時計を見ると、いつの間にか時間は二十時近くになっていた。最終の新幹線の時間を考えると、あと一時間も居れない。そう思うと後から出てきた平松の手を悦子の方から握っていた。
「知ってる? ビルにくっついた観覧車あるんだ」
 それを聞いて平松は少し目を開いて悦子を見ると、
「うん。……俺もこれからそこへ行きたいって思ってた」
 と言った。やった、ついに先に言ってやった。喜びかけて、まだ自分は行きたいとは言っていないと思い出したが、文句を言う前に既に平松は悦子を導いて歩き始めていた。観覧車があるモールビルは地下街の端にある。悦子は歩きながら少し平松に身を寄せた。二の腕が擦れる。大阪には何度か来たことがあるが、観覧車には乗ったことがなかった。乗る相手と来ていない。観覧車の思い出といえば、子供のころに連れて行ってもらった遊園地か、高校時代に女友達と乗った横浜のランドマークである大観覧車くらいだ。
 恋人と乗ったことはないから、言ったは良かったが、ビルに近づくにつれて緊張してきた。しかも初めて入ったモールビルは若者向けのショップばかりだった。こんな時間までウロウロしてるんじゃない、と高校生たちを見て思いつつ、場違いな二人な気がしてきて繋いでいる手のひらが汗ばんでくる。七階の乗り場には行列ができていた。だから皆こんなところで何してるんだよ、早く帰りなよ。悦子は繋いだ手を離すタイミングもやっぱりやめようというタイミングも失って、若者たちに前後を挟まれながら順番が来るのを待った。前で待っていたカップルが乗り込む。次だ。
「……中で変なことしたらダメだよ?」
「変なこと?」
 周囲の状況を気にせず平然としていた平松が微笑んで悦子を見た。するつもりか、絶対ダメだ。ゴンドラのドアを開いてどうぞ、と係員が手招きした。うかうかしていると乗り過ごす。ほら、と平松にも催促されて悦子はゴンドラに乗り込んだ。平松も後から入ってくる。
「もう少し向こう行って」
 対面に座ると思っていたのに、すぐ隣に座ろうとしてきた。最初っからくっついてくるな、まだ人が見てる、と焦った悦子が外を見ても誰一人こちらを見ていなかった。渋々お尻を奥にズラすと隣に平松が座って、ドアが閉められて鍵を掛けられた。
「高い所って平気?」
「そうだね、大工の娘だし」
 歩いていた時よりも距離が近い。父親の職場など行ったこともないし、足場にも上がったことがない。父親は現場を聖地だと思っているからそんなことをしようものならぶん殴られる。だから平松に言った言葉は何の根拠も説得力もなかった。若者たちの目から解放されたのはよかったが、これからの時間、二人きりになる緊張を逸らしたかったのだ。まだ手は握られている。汗ばんでいるのも気づかれているだろう。
 ゴンドラがモールビルを抜けて浮上し始めると、徐々に大阪駅前の繁華街の灯りが見えてきた。すぐ隣りのビルが近い。まだ働いている人がいて灯りが点いたフロアがいくつもあった。ゴンドラの中が覗かれるのではないかと思ったが、向こうは明るいが室内は暗みがかっているから、こちらの中が見えることはないだろう。大阪の人はエロいモノ考えるなぁ、と思った。
「すごいね」
 ゴンドラが円周の側面に来ると、前後のゴンドラとは上下の位置になるからお互い見えなくなった。誰の視線もなくなって本当に二人きりだ。平松の言葉に漸く悦子は同じ方を向くと、大阪の夜景が美しく広がっていた。


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