叔父・水越四郎A-1
四郎はボナールマンションの近くにあるコンビニの前で佇んでいた。
遅い。三原レイはマンションから出てこない。こうやってタバコを吸っていても、時間は浪費されるだけだ。
遅い。あの夏、レイは四郎の世界の中にいた。そう、確かに存在していた。三原レイ、中学一年の夏。可憐な少女は四郎の家に遊びにきた。庭に咲く向日葵を見つめていた。瞳は潤んでいるように見えた。胸のところにフリルがあしらわれた白いワンピースが眩しく映った。
四郎は深夜、レイが寝ている客間に音を立てずに入った。掛けぶとんをそっと剥がし、パジャマのズボンのゴムに指を掛けた。懐中電灯で照らした。さくらんぼ柄のパンティにときめいた。下着にそっと指を這わせたかったが、レイは目を覚ました。少女の怯えた瞳。中年男の苦しい弁解。
しかし、翌朝、三原レイはいつものように屈託のない微笑みを見せてくれた。
あの夏、レイは四郎の世界の中にいた。確かに存在していた。
今はもういない。それが悔しかった。
レイが抱えていたピンク色のコスモス。あの花を受け取った男は、レイを抱きしめているのだろうか。
四郎はくちびるを噛みしめて、コンビニの前から立ち去った。