白雪の問題=憲の問題-2
「あ、あのその……」
目の前にいる後輩31号はアタシが現れるなり顔を真っ赤にしてしどろもどろになっている。
「て、手紙読んでくれましたか?」
「あぁ、読んだ」
ちょっとギョッとなった顔が返ってきた。たぶん、アタシの口調がこういうのだと知らなかったんだろう。
「気持ちは嬉しいが、アタシにはもう……」
「俺がいるもんな……」
ギクッ!!!
「えっ……?」
「け、けけ…憲!?」
後ろからの言葉に急いで振り向くと、そこには間違いなく憲がいた。後輩31号は呆気に取られた顔をしている。
ムスッとした顔の憲がこちらにズンズンと歩いてくる。
「……先生と進路相談がいつ、後輩の告白に変わったんだ?」
あ、マズイ。いつか聞いた、低い声だ。憲の声は普段も低いが、ある状況になるともっと低くなる。
その状況とは主に不機嫌な時と怒ってる時に限定される。
「……えと、あの……すみませんでしたぁ!!」
あぁ、逃げるな31号!今回のこの原因は貴様だぞ!!
と、心で叫んでも届くわけがない。人間はテレパシーなんて便利な能力を持ってないからな。
「……なんで嘘ついた?」
「え…その……」
「………白雪が後輩から何通もラブレターを貰ってたのは知ってる。貰った事に関しては怒ってなんかいない。貰ったものは仕方ないしな。問題は、何でそれを嘘をついてまで隠したのかだ」
うぅ、やっぱり怒ってる。
「……詮索するのは嫌だ。だから、何時か話してくれると思って、黙ってた。なのに………。嘘をついてまで隠すような事か?」
「だ、だって、これは…アタシの問題だから、憲を煩わせるのは……」
………え?
な、何だ。今、憲が凄く悲しそうな目をした……。でも、次の瞬間、憲の目は確実に怒りの炎を宿していた。
「お前がラブレターを貰う事が、お前だけの問題か!?…俺達は恋人同士だよな!?……だったら……」
不意に言葉を切り、憲は苦い顔をして、そのままうつむいた。
アタシは憲の怒った声にびっくりしたが、すぐさま憲の表情を窺う。
「け、憲?」
「…………」
しばらくの沈黙の後、憲はそのまま歩きだした。もちろん、アタシも後を追う。
しかし……
「白雪、ついてくるな」
「え……?」
その時の憲の瞳が全てを語っていた。
『今、お前と話す事は何もない』
憲が去って、アタシは校庭の隅で立ち尽くした。
間違いなく……アタシは憲を怒らせた。
ど、どうしよう……。
次の日から、アタシはまさに生き地獄を味わう事になった。
朝、憲の家に言ってみれば憲はすでに学校に行ってるし、その学校ではアタシの事を無視する。
こんなにも辛いなんて……身から出た錆だけど、とても辛いよ。
そんな状態が三日も続けば、どんな鈍感な人間だって異変に気付く。
事の真相を聞き出す為に、麻衣達、四人はアタシを家で尋問にかけたのだった。
「あ〜、そりゃアンタが悪いわ」
自供したアタシに対しての麻衣の第一声がこれだ。
「白雪も酷い事言うなぁ」
孝之の第一声がこれ。
「太田くん、可哀想」
愛里の第一声。
「そりゃ、憲が怒ってもしゃあねぇな」
高坂……以下同文。
いきなりのきついお言葉四連コンボで、アタシは混乱と共に傷付いた。