ドラマが始まる-4
「それじゃ、打ち合わせ」真雪が言った。
「そうだね。まず、禁止事項からいこうか」夏輝が言った。「そっちからいいよ」
「わかった」真雪が言った。「しゅうちゃん、ゴム着用でお願いね。挿入はOKだよ」
「うん。持って来た」修平が正方形の小さなプラスチックの包みを見せて、かしこまって、少し震える声で言った。「い、入れさせてくれんのか? 真雪」
真雪はにっこり笑った。「うん。大丈夫。後はべつに禁止事項なし。極端な変態行為はしないでしょ?」
「あ、ああ。わ、わりとオーソドックス……だな」
「嘘つけ」夏輝が言った。
「な、何だよ」
「修平、あれ、やってもらいたいんだろ?」
「『あれ』?」龍がビールの缶から口を離して言った。「なに? 『あれ』って」
「こいつ、手足を縛られてイきたいらしいよ、今日」
「えっ?!」真雪が口を押さえた。「しゅうちゃん、そんなシュミがあったの?」
「ロ、ロープ、持って来たから、それで……」修平は顔を赤くして言った。「やってもらえっか? 真雪」
「い、いいけど……。じゃあ、フィニッシュはあたしが上だね」
「うん」
「意外! 修平さん、日頃は突っ張ってるのに、こういう時はM傾向なんだね」龍が言った。
「両極端なんだよ、こいつ」夏輝が呆れたように言った。「あたしをねじ伏せて、無理矢理ぶち込んでイくこともあれば、そんな風に拘束されてイきたがることもある。両極端っていうか、中間がないヤツなんだ」
「楽しそうだね」龍はビールを一口飲んだ。「夏輝さんはどっちが好きなの?」
「どっちも慣れた」夏輝は笑った。「っていうか、どっちも燃える」
「さすがだね、夏輝」真雪もビールの缶に口をつけた。
「じゃあ、夏輝さん、禁止事項なんかを」龍が言った。
「禁止事項って言うより、やってもらいたいことなんだけど、」
龍は夏輝を見てうなずいた。
「話によるとさ、龍くん、とてつもなくいっぱい出すんだって?」
龍は赤面した。「と、とてつもなく、ってほどじゃ……」
「真雪が前に言ってたよ。もう、勢いも、量も、反射回数もハンパないって。何でもケンジさん譲りだって?」
「そ、そうなのかな……」
「あたしの中にいっぱい出してくれる? ピル常用だから大丈夫」
「それはだめ」龍が静かに言った。
「え?」
「俺、真雪以外の女の人の中に直接出すのだけは、自分で許せないんだ」龍は目を伏せた。「夏輝さんとこんなことになるなんて思ってなかったってこともあるけど……」
「ごめんね、夏輝」龍の隣に座った真雪が言った。「あたしも龍以外のオトコのものが身体の中に入ってくるなんて、想像したくもない……」そしてうつむいた。
夏輝も修平もしまった、という顔をした。
「ご、ごめん、真雪、龍くん。無神経なこと、言っちゃって……」
「やっぱ、まずいんじゃねえか? こんなことって……」修平が申し訳なさそうに言った。
真雪は顔を上げた。「ううん。こっちこそ、気を遣わせちゃってごめんね。でも大丈夫。しゅうちゃんとエッチすることは全然平気。だって、前からよく知ってる人だし、かっこいいし、優しいし、あたしのことをちゃんといたわってくれそうだもん。そうでしょ?」
「も、もちろん、俺、力一杯優しくする。誓ってもいい」修平は緊張した面持ちで言った。
「しゅうちゃんがどうしても、って言うのなら、ゴムなしでもいいよ。今はたぶん大丈夫」
修平は慌てて手を顔の前で横に振りながら言った。「い、いや、大丈夫。俺、そんなことまで要求しねえよ。真雪」
「そう」真雪はにっこり笑った。
龍も少し申し訳なさそうに言った。「わがまま言ってごめんね、夏輝さん。俺も、それだけ約束してくれたら、あとは何を要求されても平気だよ」
「で、でも……」夏輝が言った。「あたし、ゴムアレルギーなんだ」
「え? ホントに?」
「龍くんにそのまま入れて、出してもらえるつもりだったから、ゴムは一つしか持って来なかった。修平の分だけ……」
「そうなんだ……」龍は困った顔をした。
「このコンドームも、」龍は枕元に置かれていた正方形のものを手に取った。「普通のゴム製だね。ポリウレタンの、買ってこようか?」
「今からか?」修平が言った。
真雪がぽつりと言った。「なんだか盛り上がらないね」