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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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F.-8

今回は自分が最後に現れる設定。
今までは順に出て歓声を浴びていたが、今回は違う。
洋平がギターを鳴らし、海斗がそれに乗って大介が淫らなドラムを叩く。
居もしないボーカルの声を想像して洋平がコーラスを歌う。
佐藤にマイクを渡されて洋平の声に合わせて歌いながらステージに向かう。
見たことのない人の数。
それでも洋平が歌っていてくれるから心強い。
いつも右にいる海斗はいつものペースで楽しそうにベースを弾いている。
想像を越した音を奏でる音で背中を押してくれる大介のドラムの音。
「最後まで楽しんでって!」
陽向が叫んだ時、ダンスフロアからは溢れんばかりの歓声が染み出した。
汗を飛ばしながらステージの真ん前に立ち、観客とハイタッチを交わす。
こんなに楽しいライブってあるんだな。
みんなは楽しい?
あたしはすごく楽しいよ、来てくれてありがとう。
零れそうな涙を堪えながら「It's」と叫ぶ。
これで終わりだなんて思いたくない…。

「すげーよかった!陽向!」
バッグヤードに入った瞬間、大介に抱き締められる。
互いに汗臭い。
「ホントに…。アーティストでないのが惜しいくらい」
「看護師だもん。…そこは譲れない」
陽向が笑うと大介も笑って「だな」と言った。
「Hi wayお疲れ!いやー、すごかった!」
そう言いながら姿を現したのは佐藤だった。
「君ら、CDとかないの?もったいないよ」
「…あー。ないっす。なんつーか、俺らそーゆーんじゃないんで。ただ、好きなコトやってるだけで…。それにみんな社会人だし…ましてや陽向は看護師だし……色々大変だから時間合わないんすよね」
佐藤は「そっかぁ」と口を紡んだ。
「…ありがたいっすけどね、ホントに」
「今日の音源」
「はい?」
「さっきのやつ全部録ったからさ、CDにしろDVDにしろ100人売れたら考えて。…この先、世に出すこと」
4人は黙った。
「売れたらね」
大介は売れっこないと言わんばかりに鼻で笑い、踵を返した。
「ありがとうございました!」
と洋平と海斗が言う。
陽向は佐藤を心配そうに見た。
「ん?」
「本気で…本気でその音源売れると思ってるんですか?」
「思ってるよ」
「佐藤さんの価値観じゃなくて?」
「バンドが好きな奴らはHi wayに嫉妬すると思うんだ」
「……」
「君らみたいな、人を思えるバンドってそうないと思う」
「えっ?」
「陽向ちゃん今日MCで言ったこと覚えてる?」
佐藤に言われ、陽向は困惑した。
正直、覚えてない。
MCはノリで行こうなんて事になって結局誰も喋ってくれなくて、自分の思いをただぶちまけた……そんなMCだった。

『あたし小ちゃいからさぁ、みんな見えないと思うんだ。だからここ立って歌うね』
陽向はそう言うと、小さな台を足元に置いてその上に立った。
いつだかに『遠くまで見えるよ』と佐藤にもらったものだ。
『みんなが見えるとこで歌わないと気が済まないから。洋ちゃんも海斗も大介も、みんなのこと大好きだからさ、もちろん、あたしもね。あたしの目ぇ見て感じて。みんなのこと大好きだよ。来てくれてありがとう。ホントに。うちらの原動力はみんななんだよ。その顔見る度に強くなったり辛くなったり嬉しくなったり悲しくなったりするの。でもね、マイナスなイメージは全部リセットされるの。ここで。みんな大好き、ありがとう、これからもよろしくね…って。みんながそうじゃなくても、うちらはそう思ってる。今日は本当にどうもありがとう!』
ワー‼︎と歓声が聞こえる。
陽向は観客に投げキッスをした後、始まりの合図を海斗に見せた。

「あの台、気に入った?」
「はい!遠くまでよく見えました」
「そりゃ良かった」
「今度別のとこでライブする時も持ってっていいですか?」
「どーぞどーぞ。そのキュートな笑顔、いろんな人に見せてやって」
佐藤は優しく笑った。
「でも…なんで、あれくれたんですか?」
「ここに意見箱あるの知ってる?」
「意見箱?あー、確か受付の横にある木箱ですか?」
ガッツリ「意見箱」と書かれていたので、なかなか印象に残っている。
「ずっと前さ、そこに紙が入ってて。『Hi wayのボーカルの顔が後ろだと全然見えないからなんとかして』って書いてあったの」
「え!なにそれ!ウケる」
陽向は爆笑しながら額の汗をタオルで拭った。
「だから作ったの。いやー、でもさ、そーやって見ててくれる人がいるっていーよね。陽向ちゃんのファンなんじゃない?」
「あははは!ありがたいですね」
「これからもここでライブしてよ。あ、クドいかもしれないけど、音源のことよろしくね」
「はい。ありがとうございました!」
陽向がお辞儀をすると、後ろから思い切りど突かれた。
「…ぎゃ!」
「なんだアレは」
「はい?」
振り向いた時、そこには湊がいた。
「なんだって…何が?」
「お前らのファン、ちょー多いのな。マジビビった。でも分かる気がする」
湊は陽向の短い前髪を小指で額に押し付けた。
その手にはビールの缶。
「すげー嫉妬した。俺もお前のファンになるとこだった」
「なればいいじゃん、酒豪」
陽向がケタケタ笑うと湊も笑顔になった。
「ホント、その笑顔ずるいよな」


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