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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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F.-6

翌日の日勤は死ぬほど早く終わらせた。
「お疲れ様です!」
と走りながら言い、エレベーターに乗り込む。
あー…早く早く!!!
陽向はロッカーに着くと今までにない早さで着替えを済まし外まで行くと、自転車に跨りかっ飛ばした。
今日は20時に駅前のスタジオで練習する約束になっている。
が、今日もイベントが多過ぎて病院を出たのは19:40。
ギリギリ間に合うかそうでないかの瀬戸際だ。
口の中が鉄味になっているが、そんなのどうでもいい。
ヒーヒー言いながら19:55にBスタジオに滑り込む。
「あー!セーフ…」
陽向を見て大介と海斗が爆笑する。
「陽向遅れるかと思った。病院からここまでじゃ大分あるだろ」
「あ…遅刻……するかと…思った……。あれ?洋ちゃん…は?」
息も絶え絶えに言うと「洋平ちょい遅れるって」と大介がしれっと言った。
「えっ?!うそ!もーっ!こんな頑張って来たのに!」
陽向はブツブツ文句を言いながらハンガーにパーカーを引っ掛けた。
マイクのセッティングを2人の音に合わせて時間をかけて行う。
「海斗。もーちょい上がる?」
「うん。でもさ、これ以上やるとこのスペースだと洋平の音とケンカすんだよね」
ブツブツ言いながらセッティングしていると、「マジごめーん!」と洋平が入ってきた。
「おせーよー!何?バイト?」
「いやいや!ちょっと待てって!」
洋平はニヤニヤしながらエフェクターケースを開けると、更にニヤニヤした。
「ジャーンっ!」
「えっ?なになにー?」
「自作のエフェクター!」
「「うぉー!すげぇ!」」
大介と海斗が即座に食い付く。
「何これ!え、誰に教えてもらったの?!」
「いつも行ってる楽器屋の店長と仲良くしてもらっててさ、こーゆーのが得意な人紹介してもらったんだー!あ、ココのつまみで微調整も出来るんだよ。この間の練習ん時なかなか上手くいかなかったから、ちょっとした改善も必要と思ってね」
みんなでギャーギャー言いながら新しいエフェクターの話で盛り上がる。
気付いたら30分も話していた。
「とりあえず音出して決めてみる?」
「さんせー!俺も試してみたいし!」
「ほんじゃー、流れ決まってっから最初からやる?」
「え、待って!入りはこれ使わないから2曲目の『Dive』からやろー」
「はいよー」
それぞれの持ち場につく。
海斗が音を出してそれに乗せて洋平が音量を調節する。
「デカすぎるかな」
「いんや…どーだろ。陽向、どう?」
「全く声聴こえないから洋ちゃんもーちょい抑えて。ベース大きい方が映えるから」
「あいよー。ってかライブだと全然違うからなんか狂うよな」
「それもそーかも。こんなにスピーカーあっちゃこっちゃ向いてないしハウらないしね」
「ま、音の構成と流れの確認ってコトで。でもちゃんと歌ってね、陽向」
「いつでも全力だよ。失礼しちゃうねー」
「あはは!喉は大事にね」
みんなで笑いあった所で場が静まる。
「やっぱ最初からやりたい」
陽向が言うと、3人が笑った。
「あははっ!だよな。俺も思った」
海斗が微笑む。
「じゃー洋平には悪いけど最初からやりましょー」
「任せろーっ!」
いつものように緩い感じで練習が始まる。
きっとこの緩さはどこのバンドにも負けないと思う。
それが自分らのスタイルだから、曲げる気はない。
納得するまでとことん突き詰める。
それも、昔からだから曲げる気はない。
入りの曲で途中まで歌ったところで陽向は黙った。
「大介音違くない?」
「え、うそぉ?どこよ?」
「タムの音。この間言ったじゃん。サビ前のトコ」
「あぁー!!!」
陽向の鋭い指摘に大介は大声を上げて微調整を始めた。
「低すぎるの。勢い足りない」
「あーい…陽向先生」
陽向と大介のやり取りを見て、洋平と海斗が笑う。
「このエフェクター解禁すんのマジで怖い」
洋平が笑う。
「陽向に何か言われそーだもん」
「気になったら言う」
「ひょー!マジこえぇ!でも燃える!」
「洋ちゃんって意外とドM?」
「陽向に言われたくねーよ」
大介が必死に微調整を続ける最中、再び笑いの渦に巻き込まれる。
「うしっ!できた!」
大介はそう言うと、先ほどダメ出しされたフレーズを確認するように何度か叩き「もっかい!」と言ってカウントを始めた。
アイコンタクトを取りながら真剣に歌っていると、音が自分の物のように思えて、離すまいと取り巻いてくる。
こんな音に生まれて来てくれてありがとう、とさえ思ってしまう愛おしい音。
曲を作ることに、詞を書くことにプレッシャーや嫌な思い出など一つもなかった。
…創造することを、何よりも好んでいるから。
創り出した物たちが自分を嫌いになろうと、駄作だと思われようと、自分は生きているこの歌を、音を愛している。
誰かの胸の中にそっと届いて形にならなくても記憶に残ればいいな、そう思う。


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