投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 45 プラネタリウム 47 プラネタリウムの最後へ

F.-5

「えー?そぉ?意外?」
「あはは。かなり。…きっと進藤さんは最初からすごくデキのいい人で、怒られたりとかしない人だと思ってました。だから…あたしのプリセプターになるなんてもったいないなぁ…って思ってます」
「なんでよ」
「なんか…その……あたしってバカじゃないですか?!」
陽向が真面目に言うと、進藤は爆笑した。
「バカって自覚してんの?!ウケる!…まぁ、風間はバカだよね」
グサっとその言葉が心臓に突き刺さる。
「でも」
進藤は笑い過ぎて零れた涙を小指で掬った。
「風間は愛されるバカなんじゃないの?仕事してる姿見てても思うんだ。どんな素っ頓狂な事言っても『風間さんが担当だと嬉しい』って言ってくれる患者さん、多いんだよ」
「え…」
「この間もね、あの検査入院の根本さんに間違えて違う検査の案内渡したでしょ?」
「あ…それは…」
先週、カテーテル検査の案内をしようとした時に間違えて違うカテーテル検査の案内をしてしまったことを思い出した。
気難しそうなおじさんだった。
正直、その根本さんと関わるのは嫌だった1週間だった。
「根本さん、風間のことすごいバカにしてたけど、いつも笑顔で来てくれるからなんか許しちゃうって言ってたよ」
「そーなんですか…」
なんだか複雑な気分。
「この仕事って『あー、この人私のこと嫌いだな』とか『関わりたくないな、何か言われるし』とか『この人とはホントに性格合わない』って思うこと沢山あるの。でも、風間はそうは思っても誰にでも優しいでしょ?」
そう言われて何故か堀越を思い出す。
よく患者さんからクレームが来ていることを考えると、自分はまだマシなんだと密かに思っていた。
「それが大事なんだよ。いくらムカついても、合わないと思っても関わらなきゃいけないのって辛いけど、自分が成長できるきっかけになると思うんだよね。『よし!今日もやったぞ!』みたいなさ」
進藤がこんなに楽しそうに話すのを見たのは初めてだった。
いつもはもっと固い話なのに。
氷河期だと思っていた心に、じわじわと緑が芽生えてくる。
「進藤さんは…」
「ん?」
「あたしのこと、そんな風に思ってくれてたんですね」
「…え?」
「なんか、なんてゆーか…あまり聞けないじゃないですか、自分のことどう思ってるとか」
「誰だって聞けないよ、そんなこと」
「でも進藤さんは遠回しかもしれないけど、ちゃんとあたしのこと見ててくれてるし、褒めてくれるし、励ましてくれるし…」
陽向がおずおずと言うと進藤は優しく微笑んだ。
「自分のプリセプティーが辛い時に支えになるのがプリセプターでしょ。頼っていいんだよ、なんでも」
そう言った後進藤は「まぁ、恋愛とかそーゆーのは苦手だから勘弁ね!」と照れ隠しのような笑いを入れた。
陽向もケラケラ笑う。
「そーやって病棟でも笑いなよ」
「…へ?」
「風間の笑顔って元気になるよね。なんかアホみたいで」
進藤が笑う。
陽向も怒りながらまたケラケラ笑った。

もしも自分がプリセプターになるとしたら、進藤さんみたいな強くて優しいプリセプターになりたいな…。

「誘ったのあたしだし、出すよ」
そう言いながら進藤は陽向の腕を掴んで財布をしまわせた。
「すみません…ありがとうございます」
いっぱい話聞いてもらったのに、申し訳ないなぁ……そう思いながらお店の外に出る。
「あ、でさ」
「はい?」
「一つ気になる事あるんだけど聞いてもいい?」
駐車場の前で進藤が小さな声でそう言った。
「はい」
仕事の話かな。
と、思ったが飛び出した言葉はかなり心臓を抉られることだった。
「瀬戸さんと何かあったでしょ」
「…え」
進藤は「分かりやすっ!」と陽向の顔を見て笑った。
「なんで…」
「瀬戸さんってそーゆー人だから。気を付けなって言ったのにー」
「え…なんで知ってるんですか?」
”何か”が何なのか抽象的すぎて分からないが、言わんとしていることは口にしなくても理解できる。
「おしゃべりだからさ、瀬戸さん」
「……」
「風間に彼氏いることも分かってるし、でもそんなコトしちゃうのが瀬戸さんなの」
「進藤さんは……」
陽向は進藤の目を見ずに言った。
「何されたんですか?」
「聞きたい?」
「……」
「最後まで。ちゃんと。でもね、あの時はちゃんと付き合ってたよ」
「そーなんですか…」
「あの人は顔がイイからさ、好きな子にはすぐ手出しちゃうの。自分に自信あるんだろーね」
「…でも、なんで別れたんですか?」
「それは…あの人の気まぐれでしょ」
「それでいいんですか?…傷付いたとか、そーゆー風に思ったりしなかったんですか?」
陽向は立て続けに聞いた。
別れるということは、傷付けるもしくは傷付くことだと思っていたから。
…気まぐれなんて言葉、許せなかった。
「好きだったよ、あの人のこと。でも他に好きな人がいたってこと知ってたからさ。その人には敵わないと思ったし、すごく嫉妬した」
進藤は陽向の目を見て「知ってる人だったから」と言った。
時が止まる。
「瀬戸さんがずっと好きだったのって、風間なんだよ」


プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 45 プラネタリウム 47 プラネタリウムの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前