F.-4
進藤と来たのは病院からほど近い所にあるハンバーグ屋。
ハンバーグを見ると瀬戸の顔が過る。
進藤さんもハンバーグ好きなのかな…やっぱ、瀬戸さんの影響…?なんて莫大な妄想が瞬時に繰り広げられる。
「風間、どれにすんの?」
入店し、すぐさまメニューを手に取る進藤。
「んー…あー…。進藤さんは?」
「あたしは和風ハンバーグにしよっかなー」
パラパラとメニューを見ながら進藤は即決した。
「えー。どーしよ。じゃあこれにします」
陽向はグラタンを指差した。
「えぇっ?ここに来てまでグラタン?!」
進藤が爆笑する。
ハンバーグって気分じゃないんだよなぁ…と心の中で思う。
その思いが全面に出た瞬間だった。
「あはは。グラタン好きなんで」
「そーなんだ!…ってか風間、小食なイメージ」
「よく言われます。でも、結構食べますよ」
「えー!うそだー!」
「食べますって!」
進藤とこんなプライベートな話をしたのは初めてだ。
いつも病棟じゃツンツンしてるのに、プライベートとなると普通だ。
優しいとまではいかないけど、本当に『先輩と後輩』という普通の関係であるのだ、ということを再認識する。
「仕事慣れた?」
しばらくして運ばれてきた和風ハンバーグを頬張りながら進藤は言った。
「あー…はい。でもやっぱりインシデントとか抜けの多さはダントツだと思います」
「あははは!自覚してんだ」
「それなりに」
「風間って結構トロいってゆーか、鈍いってゆーか……いつも病棟じゃブスッとしてて何考えてんだかワカンナイ」
その言葉に全てが詰まっていると思ったし、逆に、病棟じゃそんな風に見えてるんだ…と悲しくなる。
ブスッとしているつもりはないし、むしろ怖気付いているに近い。
なのにそんな風に捉えられているのかと思うと、複雑な気分になる。
陽向はグラタンをスプーンで突つき、黙った。
「あたしだって初めの頃はそう言われてたよ」
「え?」
「『何考えてんのかよく分かんないからハッキリ言って』とか『分からないのに何で言わないの?』とかさ。…あたし、人に弱味見せるのが嫌だって思うタイプだからさ、一人で暴走して、結果、怒られて…。今思うとトンデモナイ新人だったと思うんだよね」
進藤は笑いながら陽向を見た。
進藤がトンデモナイ新人だったとは思えない。
彼女の同期の中では、一番デキの良い逸材だとさえ思っていたのに。
陽向は「意外すぎます」と笑い、グラタンを頬張った。