思い通りにいかなくて-1
「今公開中のこれねー、すごいいい映画なんだって。ひよりちゃんママが言ってたの」
「へえ」
スマホの画面に表示させた映画のサイトを見せると、輝くんが私の背丈に合わせながら屈んでくれる。
ちょっと濃い目のキリッとした眉毛が好きなんだよなあ。
この距離感がなんだか懐かしくもあり、新鮮でもあった。
おめかしした私同様、輝くんもまた、天慈くんのアドバイスでも受けたらしく、夏はTシャツとハーフパンツという無頓着な格好しかしなかったのに、薄手のジャケットなんか羽織っちゃって、ちょっぴりオシャレしてるみたい。
ヘアスタイルも天慈くんがセットしたのか、ナチュラルな無造作ヘアって感じで、輝くんがいつもより2割増でカッコよく見える。
すっかり女を忘れていた私だったけど、綺麗になるとこんなにも気持ちが高揚するもんだったんだ。
それプラス、輝くんの褒め言葉。
「いい感じじゃん」なんて素っ気ない物言いだけど、照れ屋な所を知ってる私にはこれ以上ないほどの褒め言葉なのだ。
さらには結婚してからは繋ぐことのなかった手を、自然に繋いでくれた彼は、チラチラ私を見ては、照れ臭そうに視線を逸らす。
私もまた目が合えば照れ笑いをしてみたり。
あー、デートを計画してよかった!
育児ですっかりスニーカーばかり履いていた私は、慣れないサンダルでアスファルトを踏み鳴らす。
そのリズムに鼻唄なんて歌いそうになりながら、私達は最初のデートコースの映画館に向かった……のだが。
◇
「えー、席空いてないんですか!?」
チケット売り場のカウンターの前で、私は不満の声を高らかに上げた。
透明のアクリル板の仕切り越しに、スタッフの綺麗な女の子が申し訳なさそうに深々と頭を下げるけど、釈然としない。