思い通りにいかなくて-3
「でも満席なんだろ? どうしようもないだろ、後ろもつかえてるし……」
視線だけで促され、再び行列をこっそり見やれば、あからさまなため息や舌打ちが聞こえてきた。
まずい、なんとかしなきゃ!
とは言え、他のデートプランを考えていなかった私は頭が真っ白。
付き合っていた頃のデートと言えば、ショッピングとか、カラオケとか、ドライブとかが定番だった。
だけどショッピングをすれば輝くんがすぐに飽きちゃって、パチンコしながら待ってると別行動になるし。
カラオケは輝くんが苦手で、ほぼ私のワンマンショーだし。
ドライブだって、今日は駅で待ち合わせだからって家に置いてきてるはずだし。
今日は特別な日にしたいのに、今までのデートのような色気のないパターンなんかじゃ、セックスレスを脱却できるわけない。
切羽詰まった状況に置かれた私はパニックのあまり、
「それじゃあすぐ観れる映画のチケットを2枚下さい!」
と、早口でスタッフの女の子に捲し立てていた。
◇
「ごめんなさい……」
「いや、いいよ」
噴き出しそうなのを堪えている輝くんの隣で、バツが悪そうに肩を竦める私。
そして、周りを見渡せば……。
「ママー、おしっこ!」
「ねぇ、まだ始まんないのー!?」
「お腹空いたー」
あちこちで聞こえる小さな子供達の声。
そう、さっき私がスタッフの女の子を急かして買った映画のチケットは、瑠璃くらいの子供が普段テレビで喜んで観ているアニメの劇場版だったのだ。
開演3分前だったので、タイトルもろくに確認せずに、スクリーン番号だけを聞いて慌てて駆け込んだら、この有り様。
当然ながら周囲は親子連ればかりで、カップルなんて皆無。
確かに私が「すぐ観れる映画」と言ったけれど、だからといってこれじゃムードもへったくれもあったもんじゃない。
よく考えたら、あと10、15分くらい待てば子供向けじゃない映画を観れたんだよなあ。
慌てて席に着いたものだから、ドリンクも、ポップコーンなんかも何も買わなかったし。
何だか急に朝食を食べてこなかった自分のお腹が心もとなくなってきていることに気付き、ため息を吐きながらぺたんこのお腹をスリスリさすった。