て-5
「どうして。私に前世の記憶が戻ったと分かったんですか?」
「イタリアからの電話で、私を残して『もう』どこにもいかないで、って
言っただろ?」
「はい・・・?」
「大正大震災の事を言ってるのかと思った」
「あれは・・・無意識で」
「そうか」
「でも結果的に、そのショックで木曜日に夢を見たんです」
「夢?」
「はい。前世の記憶をかいつまんで見ました」
「そうだったのか」
「前世の俺は良い男だった?」
「それはもう。当代きっての殿方でございますもの。
男爵家自慢の若旦那様です」
涙が。
涙が止まらない。
抱きしめられても。
これが現実なのかと疑ってしまう。
私たちはそれほど、前世では触れ合うことすらできなかった。
「みさを。俺の美緒。100年の時を超えて。
それでもなお、愛してるよ」
ゆっくりと、私たちは100年越しのキスをした―――