四人の女-24
綿田文子、美成と同姓の友人
美成は綿田美成というのがフルネイムである 。同級生にもう一人綿田文子という子がいて順列は美成の一つ後である。
中学までは公立でずっと席順は前後であって仲が良かったが、高校から美成は医大の附属高校へ、文子は公立の高校へと別れて進学して、再会することがなかった。二人の家は山一つ超えた反対側で、利用する電車の駅も同じ村でありながら違っていた。
美成は、ある日の午後なんとなく電車のガードを潜って駅の反対側へ出てみた。プラットホームの下は広い道路が線路に沿って次の駅まで続いていて、片側は山肌を削って落石防止のコンクリートが打ち込まれている。その下は広い下り坂の歩道である。山肌が切れるところに、一軒のバーがある。「バー文」と飾り文字で書かれて周囲を電飾が取り囲んでいる。駅から歩いて五分ぐらい、坂の中途で、こんなところに客が来るのかな。
美成はたまたま客がなくてクラブが早く終わり電車の駅に降りたのが十一時半、ふと、あのバーはと駅の反対側に出てみた。営業中なのか電飾が輝いていた。
「今晩は・・・・・まだ開店しているの」
身体の線が奇麗な女の人が振り向いて、
「どうぞ・・・・・・アラ美成さん」
「え? 文ちゃん・・・・・・久しぶり・・・・・中学以来ね」
「美成さん・・・・・・相変わらず奇麗だね、勤め帰りね・・・・・同業かな」
「その通り、クラブまほろばのホステスよ」
「まほろばの・・・・・ナンバーワンでしょう」
「それほどのことはないよ、文ちゃんは結婚したと誰かが言ってたが」
「そうよ、結婚したけれど、追い出されたの」
「姑さんで?」
「いいえ、旦那の浮気。というか、結婚する前から好きな人がいたのね。うちの土地がニューグリーンの団地開発で売れたでしょう。私の持参金がお目当てだったのね」
「金の切れ目が縁の切れ目、っていうやつ」
「そうなの、一年で、持参金みんな使ってしまって、元かのと、同棲、追い出されたの」
「只で追い出されたの?」
「家を売らせて、七割貰った」
「彼どうしているの?」
「新しい嫁さんの家に入り込んでしまった」
「その金でここを?
割合広いじゃないの・・・・・二階が居住するところ?」
「美成さん、相変わらず綿田薬局に」
「姉二人は出て行く、母は再婚して出て行って東京で旦那の家、今は私が一人」
「あの広い家に?
婿さん貰いなさいよ、美成さんならよりどりみどりよ」
「クラブのアフターで、男に不自由していないから、そのうち誰かの種を貰って子供を作って、シングルマザーで行こうと思っているの。文ちゃんはどう」
「私はね、あんたと同じ歳、旦那と別れてから男気なし、魅力ないんかなあ、店に来るお客さんからもお誘いはないの」
「若い人が多いの?中年以上の人?」
「この店、料金安くしているから、中年以上の所帯持ちが多い」
「医大の学生さんは」
「たまに来るけれど、皆さん真面目ね」
「これ、おいしいよ、文ちゃん作ったの?」
「そうよ・・・・・・もう三種類有る。試食して」
「精の付く物ばかり、男が欲しくなる・・・・・・」
「わたしも、誰か来ないかな、引き止めて、店閉めてしまう」
「二人、若い子が良いね」
「本気に成られては困るけれど」
「文さん妊娠したらどうするの」
「生みますよ、シングルマザーで行きます。三人は欲しいな」
「種違いでも?」
「へいきよ、美成さんは」
「私もその線で行こうかな」
「今晩は、まだいいですか」
「いいですよ、明け方まで・・・・・お二人」
「ハイ二人です」
「医大の学生さん?。遅いわね」
「今日で前期の試験が終わって、明日から休みに入ります。一寸飲みたくなって」
「どうしてここへ」
「僕達のマンションは、この上ですので、ここの二階の屋根が下に見えるのです」
「そうなの、下からは見えないけれど」
「お國は遠いの?」
美成が聞いた。
「僕は、明石」
「僕は諏訪市」
「長野県のね、お名前は」
「結城松月 (ゆうきしょうげつ)です」
「明石の方は」
「多田保 (ただたもつ)です」
「店閉めて四人で楽しく飲みましょう、ママさん私がおごるから、いいでしょう」
「いいわよ、閉めちゃいましょう、明日お休みなら朝まで徹夜でね」