E.-1
「…っやだ!」
「今日もインシデント隠してやったのに、そーやって拒否るわけ?」
9月半ばの18時過ぎ。
処置室の固いベッドに身体を押し付けられる。
陽向は瀬戸の胸を思い切り押した。
が、男の力には敵わない。
両腕をガッチリ抑えられ、そのまま首筋や耳を舐めまわされる。
「いっ…ぁあっ!」
「そんなやらしい声出して…俺のコト、誘ってんの?」
「誘ってないっ!やだっ!いぁぁっ!やめて…」
湊…助けて……。
「…なた」
湊…湊…。
「陽向!」
ハッとなる。
目を開いた視界の先には、求めていたもの。
「み…なと……」
陽向はピーピー泣きながら湊にしがみついた。
湊がゆっくりと抱き締めてくれる。
「怖い夢…見たんか?」
陽向は答えずに、眠そうな声をした湊の背中を抱き締めた腕に力を込めた。
「ひな…大丈夫」
「もっと…」
「なに…」
「もっとギュッてして…」
湊は笑った後、陽向の身体をきつく抱き締めた。
おまけにおでこにキスもしてくれた。
大好きな香りが漂う。
「手、貸して」
その言葉に従い、右手を差し出す。
湊の左手が、自分の右手の指に絡む。
「朝までこうしててね…」
陽向が呟くと湊は何も答えずにもう一度陽向のおでこにキスを落とした。
目を覚ました時、時計は8時になろうとしていた。
湊の休みに合わせて取った遅めの夏休みはたった3日。
だったのだが、師長のご好意で前後に休みを付けてもらい5連休ももらってしまった。
仕事に慣れてしまった今、8時間睡眠が自分に合っていると感じる。
昨日は湊が帰って来たと同時に眠りについた。
そして、嫌な夢を見た。
…瀬戸に襲われる夢。
望んでもいないし、むしろそうなってしまっては困る。
陽向は夢の事など忘れようと、右手を見た。
気付いたら手を繋いで眠っていたみたいだ…。
スースーと寝息を立てている湊の胸に頬を寄せる。
「んぁ……ぅ…」
湊の左手が自分の右手から離れ、頬を撫でる。
親指で、ゆっくりと撫でられる。
「んん…」
湊は目を開けて陽向の存在を確認した。
「おはよ」
「んー…」
そのまま抱き締められ、頭を撫でられる。
「ぉはよ…」
「起きてないでしょ」
「ひな坊早起きすぎ…」
湊はきっと疲れているんだろうな…。
昨日まで7連勤だったと言っていた。
死ぬほど眠りたくなる気持ちは痛いくらい分かる。
陽向は湊の眠りを妨げないように腕の中で丸くなって目を閉じた。
…もう、あんな夢二度と見ませんように。
そう願いながら湊の手を握った。