ヘタレですけど-7
……何だよ、それ。
気付けば身体が震えていた。
「さあて、便所行ってこよ」
修はそんな俺の様子なんて全く気付かないまま、口笛を吹きながらログハウスの中に入って行った。
温厚が取り柄の俺だけど、これにはさすがにキレた。
俺より州作さんの方が沙織を好きだと暗に言ってる気がして。
……沙織に対する想いを軽く見られていた気がして。
ふざけんなよ、俺がどれだけ沙織を好きなのか知らねえのか!?
「おい、大山!」
そして、気づくと俺は紙皿をウッドデッキに置いて、修の後を追いかけていた。
「修、てめえ!」
奴の胸ぐらを掴んでやろうと修の肩を掴んだ瞬間、視界がぐわんと揺れた。
次に、フローリングの固い床に叩きつけられる衝撃。
うっすら目を開ければ、シーリングファンがゆっくり回ってるのが見えたこと、そして俺の身体にズシリと重みがのしかかってきたことから、修に馬乗りにされたんだ、と気付く。
そしてさらには、目の前に奴が険しい顔して睨み付けていた。
「何だよ、ヘタレ」
眉を潜めて俺を睨むその表情や、ドスのきいた低い声は、とても迫力があって、普段の俺ならびびって目を反らすのだけど、今は怒りでそれどころじゃなかった。
「うっせ、俺は、ヘタレじゃねえぞ!」
マウントポジションを取られながらも、負けじと修の胸ぐらを掴み上げる。
本気で殴り合いしたら勝てるわけがないけど、沙織に対する想いをコケにされて、黙っていられるか!
でも、修には痛くも痒くもないらしく、
「ヘタレじゃなきゃなんだってんだよ、沙織から逃げた腰抜けが」
とバカにしたように笑う。
そんな修に、俺の怒りは増していく。
「ふざけんな! 俺は逃げちゃいねえぞ?」
「逃げただろうが。聞いたぜ? 沙織がナンパされてたのを自分が助けられなかったからって、いじけて卑屈になって別れたんだろ?
そういうのを“逃げた”ってんだよ」
「…………!」
痛いところを突かれ、言葉が出なくなる。
変わりに出てきたのは、涙だった。