ヘタレですけど-6
二人きりで買い出しから戻ってきた頃には、沙織にずいぶん笑顔が戻っていた。
沙織の笑顔は何よりも大好きなのに、それは州作さんのおかげだと思うと、いてもたってもいられなくなる。
一体どんな話をしたのだろう。
沙織が州作さんに笑いかけるだけで。州作さんが沙織に話しかけるだけで、二人の距離がどんどん縮まっていくのが目に見えてわかった。
「あんまり気にすんなよ」
「歩仁内……」
ウッドデッキの隅で小さくなっている俺の隣に歩仁内が座る。
今の俺には、こうして誰かに優しく話しかけてもらえるだけで泣いてしまいそうになるほど、心が打ちのめされていた。
「兄貴、ああ言ってるけど、中川さんがお前を好きなら絶対勝てねえんだから」
猫舌なのか、大げさ過ぎるくらいに焼けた肉に息を吹き掛けている歩仁内。
「お前ら、今まで喧嘩らしい喧嘩してなかったから、ちょっと話がこじれただけだと思うよ」
「……そう……だよな」
理論派の歩仁内が言うと、本当にそんな気がしてくる。
それにしても、実の兄より友達を応援してくれるなんて、コイツはなんていい奴なんだ……!
励ましてくれるその爽やかな笑顔に、思わず惚れそうになる。
……かと思えば。
「歩仁内ぃ、そんなヘタレほっとけよ」
折り畳み椅子に座って、飯をかっこんでいる修は、こちらを見ようともせずに、そっけなく言った。
修は完璧に俺に愛想を尽かせたようで、すっかり州作さん派にまわってしまったようだ。
確かに愛想を尽かされるほどのことをしてしまったのは自覚している。
だけど、手のひら返したみたいに州作さん側に付くのはあんまりじゃないか?
俺と沙織が付き合うに至るまで、いつも一番に応援してくれた修。
悔しさと怒りでグッと唇を噛み締めている俺のことなんて気にも留めない奴は、
「おーい、歩仁内見てみろよ! 沙織に笑顔が増えてきてよかったなあ。
やっぱり女って愛された方が幸せになれるっていうけど、あながち間違いじゃねえんだな」
なんてヘラヘラ笑ってた。