ヘタレですけど-4
あっけに取られる俺達の中で、真っ先に動いたのが歩仁内だった。
「兄貴の奴……!」
俺の横に座っていた奴が、小さく舌打ちをして立ち上がる。
俺と沙織が別れてしまったなら、州作さんのしていることは問題ないはずだ。
でも、止めようと立ち上がるその姿が、嬉しく感じた。
まだ俺には味方がいるんだ、そんな気がして。
なのに、俺はそれでも州作さんのアタックに割り込む勇気が出せなくて、歯をカチカチ鳴らしていた。
クソ、何で身体が動かねえんだよ。
目の前で沙織が他の男にかっさらわれようとしてるってのに。
そんな焦りは募るのに、“自分から別れようと言った俺”が、州作さんを止めようとする権利があるのか、それだけが引っ掛かって動けない。
「おい、兄……!」
そんな中、歩仁内が州作さんを諌めるため、ウッドデッキに向かおうとした、その刹那。
歩仁内の腕を、筋肉質のガッシリした腕が掴むのが目に入った。
「土橋……?」
眉を顰めるその表情に、いつもの柔和な雰囲気はなかった。
そして、修もまた、
「いいじゃん、好きにさせてやれよ」
いつもの茶化した様子なんて一切見せない、冷たい顔と声で、そう言い放った。
「何でだよ!」
明らかに苛立つ歩仁内は、修が掴んだ手をバッと振りほどいた。
初めて見る歩仁内の怒りに、こっちが怯みそうになるけど、そこはさすが修、ビビる様子なんて全くなく、歩仁内を睨み返した。
「沙織とコイツは別れたんだから、お前の兄ちゃんがどれだけ口説こうが自由だろ」
「でも……、だからって!」
「いいんだって。沙織が州作さんに口説かれてるの見ても、倫平は平気だからこうやって黙ってるんだから」
修の言葉に、身体がビクッと震えた。
違う! 平気なわけねえだろ!
そう言いたいのに、やっぱり身体は強張ったまま。
一方、修と歩仁内の言い争いに、いつの間にか中にいた沙織達もシンと静まり返り、俯いていた。