クリスマスの夜に-1
12月24日の夜。
繁華街近くの並木道は、深夜になっても大勢の人でごったがえしていた。
サンタクロース、トナカイ、赤や緑のリボンがかかったプレゼントの箱の山。
安っぽいイメージの電飾がそこかしこにぶら下げられ、かわりばえのしないクリスマスソングが延々と垂れ流されている。
そんな風景の中をいかにも楽しげに、仲の良さそうなカップルたちが手をつないで通り過ぎていく。
毎年、同じことの繰り返し。
……いったい、何が楽しいんだか。
湖原マリはコートのポケットに手を突っこんだまま、不機嫌な表情で駅までの道を歩いていた。
「ちょっと待ってよ、マリちゃん。まさか、もう帰るつもり?」
真後ろから峰本達也の困ったような声が追いかけてくる。
もちろん、いちいち振り返ったりしない。
前を向いたまま、まるで聞こえなかったように無視をする。
そんなことができるのは、相手が絶対に怒りだしたりしないことを知っているからだ。
達也はふたつ年下の幼馴染で、いまも近所に住んでいる。
今年で25になるというのに、子供のころから少しも変わらず頼りなくて甘えん坊で、まったく男らしくない。
いつのまにか背はマリよりもずっと高くなって、女の子たちからはそれなりに人気もあるらしいが、マリにとってはいつまでも弟のような存在だった。
「ねえ、せっかく一時間もかけてきたのにさあ。屋台とかも出てるし、もうちょっと遊んで帰ろうよ」
「だって用は済んだでしょう? あんな電球でできたトンネルみたいなの、どこが面白いんだか知らないけど」
「あはは、マリちゃんらしいな。だってほら、ああいうところに行くとクリスマス気分になれるかなって」
今日見てきたのは、毎年話題になるイルミネーションの祭典だった。
うんざりするくらいの人混みの中で長時間並ばされたわりには、30分もあれば見終わってしまう。
それでも巨大なステンドグラスのようなアーチがいくつも連なっている様子は、言葉を失うくらいに綺麗だった。
達也の気遣いが、じんわりと心に染みる。
けれど、それを口には出せない。
マリは不機嫌な顔を崩さず、わざと嫌な言い方をした。
「あんなの、人混みで疲れるだけじゃない。歩きすぎて足も痛いし、寒くて風邪ひきそうだし、ほんと最悪」
「でもさ、そんなこと言いながらでも一緒に来てくれたじゃないか。口は悪いけど優しいんだよね」
去年は、美しくライトアップされた夜の水族園。
その前は、遊園地のクリスマス限定イベント。
いつもいつも、達也はこの時期になると必ずマリをどこかへ連れ出そうとする。
『どうしても僕、行きたいところがあるんだよね。でもひとりじゃ寂しいから、つきあってよ』
毎年繰り返される、同じ誘い文句。
本当は達也だって人混みなんて嫌いなくせに。
大げさなくらいはしゃいで、どうにかしてマリを笑わせようとする。
その理由は、なんとなくわかっていた。
わかっているから、余計に素直になれなくなる。
「べつに優しくなんかないわよ、たまたま……そう、たまたま暇だっただけ」
「それでもいいよ。そうだ、足が痛いんだったら休憩しようか。この近くにいい場所があったはずだから」