幸代と瀬奈-6
その日以来、海斗が幸代の話をしてももう瀬奈は取り乱す事はなくなった。他の女の名前が出ると目つきか変わる事はあるものの、幸代に関しては逆に楽しそうに話題に乗ってくるようになった。幸代のおかげで糸口を見つけたような気がした。
今まで瀬奈の奇行を目の当たりにした人間は瀬奈を危険な人間と認識して関わりを断とうとしてきたのだろう。正面からぶつかってきてくれる人間が居なかったんだと考えた。瀬奈にとって必要だったのは自分を分かってくれる存在だったのかも知れない。どんなに訴えても変人扱いされ理解してもらえないもどかしさが瀬奈をああいった行動に導いてしまったのだと海斗は思った。
「日曜日、ショッピング行こうよ。」
殆ど毎日のように仕事が終わってから瀬奈に会いに海斗の家を訪れるようになった幸代。瀬奈は幸代に会うのが楽しみなようであった。
「いいかな?」
海斗に確認する瀬奈。瀬奈は海斗と釣りに行く以外、外出した事はなかった。
「勿論。行って来いよ。」
快くそう言った。元々殆ど家に引き込もっている瀬奈には心配していた。表へ連れ出してくれるのは大歓声であった。
「じゃあ美味しいお店とか可愛い服とか売ってるとこ行こうね?車で迎えに来るよ。」
「はい!楽しみにしてます。」
幸代がいるのはせいぜい30分ぐらいの短い間であった。しかし幸代にとってその時間が物凄く楽しみなのであった。たまに来ない日があると瀬奈の病気が現れる事すらあった。わざと自分と幸代を会わせないんだろうと言いがかりをつけてくる。以前に比べてだいぶ減ったが、まだまだ瀬奈の病気は治ってはいないのであった。しかし少なからずとも改善の兆しも見えてきた事から全く治らない病気ではない確信は得られた。気付けばどうしてそこまでして瀬奈の病気を治してやらなきゃならないのか思った事はあったが、一度乗りかかった船から降りるのは意地でも嫌だ。何が何でも遂行してやる、海斗はそう思うのであった。